偉大なる勇者の双子の兄
タクヤ
第1話 奪われた
「お前達が15歳になり成人したこの日を持って、この公爵家の後継者はルミール・フェクシオに決まった」
そう机の前に座っている威圧感のある金髪の男は淡々と告げた。まるで当然かのように。
「はぁ?」
僕はその言葉が理解できなくて困惑の言葉を吐いてしまう。だってそうだろう?
ここまで死に物狂いで努力をしてきたのは全部全部全部、この家を継いでそして――
「ま、待ってよ父さん!いくら何でも早すぎないかい?決めるのは今通ってる魔法学園を卒業してからでも……」
放心していると僕の隣に立っていた女が抗議の言葉を目の前の男、つまりは父さんに向ける。
女の容姿は男と見間違うほど中性的で凹凸のない体つきをし、金色の髪に緑色の瞳をしており身長は180前後。服は貴族が着るような豪華な白色のの服とズボンを着て男装をしている。
所々違うところはあるが主な容姿の特徴は僕にとても似ている。それはそうだ。だってこいつは僕の双子の妹なんだから。
「これは決定事項だ。フェクシオ家では代々、成人した時に一番優秀な子供を後継者に指名するという事はお前も知っているだろう」
それは知っている。子供の頃から聞かされていた事だ。だが絶対に納得なんかできない。
「ふざっけるなよお前!貴族はこのイセン王国を人間を襲う魔物共や他国から守るために存在してるんだろ!?それにフェクシオ、いや他の貴族でもずっと魔法を使える人間を後継者にしてきた!例外はない!なら魔法を使えないこいつじゃなくて僕に継がせるべきだろ!?」
頭が沸騰してまともな思考ができない頭で父さんの机を手で叩くが、冷めた目でそれを見て一蹴する。
「確かに魔法が使えない人間が貴族になったことはなく、この家でも前例はない」
「なら……!」
「だが重要なのは魔法が使えるか使えないかではなくこの国や民を守る力があるかどうかだ。ならこいつはお前よりも優れている」
「っ!」
そう言われては反論ができない。事実だからだ。こいつは僕よりも強い。それは認める。だが。
「……後継者にできるの?だってこいつは」
「女神アレルに選ばれた勇者か?」
僕は反論できる所を見つけてつい口角が上がる。
「そう!こいつはこの世界を作ったとされる女神アレルに魔物から人間を守るために生まれた時から聖剣を送りつけられたクソッタレの偉大なる勇者様!」
ルミールは曇った表情をしたが僕は狂ったように言葉を続ける。その顔にどんな思いが込められているかは考えずに。
「そんなのこの国の貴族にしたらさぁ!女神を信仰してる聖国も勇者の使命を邪魔するって反対するし!王国と敵対してる帝国も勇者の化物みたいな力を使われるかもしれないってなったら黙ってるわけないじゃん!!」
端から見ればそれは幼い子供の癇癪だ。まともな父親ならそれを見れば何か反応を示すだろう。
だが目の前の男は無表情のまま残酷なまでに告げた。
「残念だがお前の言う全ての国がそれを了承した。これからも勇者の力は王国のためには使わず、魔物を殺すために使うことを条件に契約魔法を使ってな」
「っ!でも!だって……」
まずい。まずイまズイマズイ!返せる言葉が出ない!このままじゃ僕はまたこいつに全てを!
「ふふん。もう認めたらどうですか?ジェロア・フェクシオ。貴方よりこの私の使い手。つまりは聖剣を持つルミールの方が優れているということを!」
「……あ?」
「ちょっ!」
ガキの頃から聞いてきた僕の大嫌いなバカそうな声が聞こえる。
苛立った声を出し、その聞こえた方向を向くとルミールの腰に付けられていた剣がガタガタと動き、鞘から出ようとしていた。
「あっ!」
それをあいつが必死に白い手袋を付けた手で押さえていたが、とうとう出てきて空中に浮く。
その刀身は美しい黄金に輝き、見るもの全てを魅了するが僕にとっては嫌悪の対象。
これが女神がルミールに送ってきた聖剣。名をスペラ。僕が大嫌いな喋る剣だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます