三題噺保管庫

でんの

第1話 ラッパ吹きの男(スノウマン)

お題:「ラッパ」「霧」「懐炉」


 この寒々とした村には魔除けとして雪だるまの人形を飾る習慣がある。その起源となったのは昔こんな出来事があったからだそうだ。


 この村の家に、ケースに入ったラッパを背負った男が訪れた。彼が言うには道に迷ったらしい。住人は彼を快く迎えもてなした。

 その晩、霧の魔物がその村を包み込み住人たちを襲い始める。その魔の手が家の子に襲いかかろうとした瞬間だった。突如ラッパの音が響き渡り、霧の手が怯んだのだ。

「今だ!こっちに来い!」と男が叫ぶ。

「そのラッパは霧をやっつけられるの?」

男の元に辿り着いた子どもが聞く。

「ああ、けどな...」

「けど?」

「寒すぎてうまくラッパが吹けないんだ...」

よく見ると男の唇は真っ青で全身がガタガタ震えていた。

「じゃあこれを使ってよ!」

子どもはそういって近くの箱からとある物を取り出す。


 村の人々の顔は絶望と諦めに満ちていた。ある者が天に祈った時、それに応えるようにラッパの音が村中に響き渡る。その瞬間星々を覆っていた霧は叫びと共にたちまちに消え、それどころか昼間のごとく明かりが差す。音の主は男。その体には懐炉が大量に巻かれていた。


「ありがとうございました。」「ありがとう!」

翌朝、旅立つ男に村の住人や子どもが口々に感謝を述べた。

「こちらこそ見ず知らずの私を泊めてくださりありがとうございました。しかし、やはり冷えますね」

男の体は相変わらず震えている。

「じゃあこれを持っていって!」

子どもが大量の懐炉を持ってくる。

 見送られる男の顔は暖かさに至福の表情を浮かべている。懐炉に包まれた男のシルエットは雪だるまのようであり、それを見た人々は彼を「ラッパ吹きのスノウマン」と呼んだ。


 いつの間にか肝心のラッパ要素が抜け落ち、後世では雪だるまが魔除けの象徴となったのだった。

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