俺がアル様に転生してしまった件について〜前世は厨二病アル教徒〜
モロモロ
第1話 転生、そして推しキャラの幼少期
深夜の一室。
世界を救う光の勇者レイを倒し、アレクサンダー・グラヴィティアス公爵の勝利ルートを完遂した佐藤誠は、深夜にも関わらず興奮を抑えられずにいた。
「ふはは...!我が神、アル様の勝利こそ正義...!光の加速(ディバインアクセル)など所詮、重力(グラビティ)の前では無力...」
壁一面に貼られたアレクサンダーのポスターに向かって中二病全開の独白を続ける。
机の上には『The Divine Light』のスピンオフ作品『The Divine Light Another MUSOU』のパッケージが数あるゲームの上に積み重ねられ、画面には300時間超えのプレイ時間が表示されている。
「このアル教徒、本日も布教活動に励んでおりました...! 8chのアル様スレも完全に支配し...レイ信者を数多論破し...」
スマホの画面には延々と繰り広げられるゲーム考察が表示されている。
レポート提出日も迫っているというのに、21歳の理系大学生は己の信仰に没頭していた。
「ああ、アル様...!もし可能であれば、このアル教徒に御身の幼少期からお仕えしたき...!」
黒いコートを羽織り、右目を押さえながら厨二病ポーズを決める誠。
「我、必ずやその悲劇を...母上の死を...!」
その瞬間、激しい眠気が襲ってきた。
「あ、やべ...明日、講義...」
机に突っ伏したまま、誠は深い眠りに落ちていった。
「アレクサンダー様、お目覚めの時間です」
「んん...? アル様...?」
「朝食の準備が整いました。本日はエレノア様もご一緒です」
「エレノア...様...?」
誠はボンヤリと目を開けた。
見慣れない天蓋付きの豪華なベッド。
優雅な調度品の数々。
そして、自分の手が、異様に小さいことに気が付く。
「うお!? なんで俺の手、子供サイズに!?」
慌てて近くの姿見に駆け寄る。
そこに映っていたのは、銀色の髪と紫紺の瞳を持つ幼い貴族の少年。
間違いなく、ゲームの中でしか見たことのない、幼年期のアレクサンダー・グラヴィティアスその人であった。
「まさか...まさかまさかまさか! 俺、アル様に転生!?いま何歳なんだ??」
「アレクサンダー様?年齢は3歳でございます。他にお困りでしょうか?」
「い、いや! 我は...その...!」
(やべえ。厨二病が出そう。でも3歳児が厨二病口調とか絶対おかしいだろ...!)
食堂に案内された誠は、その光景に息を飲んだ。
「おはよう、アレクサンダー」
その声に、誠の心臓が跳ね上がる。ゲーム本編では既に死亡しており、スピンオフ小説でしか描かれなかったエレノア・グラヴィティアス。
アレクサンダーの母。
そして3年後、悲劇的な死を迎える運命の人物。
(うわあああ! 母上ぉぉぉ! 攻略wiki見まくった母上が目の前に!)
「おはよう...ございます...母上...」
震える声で返事をする誠。
感極まって涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
「あら、今日は随分と丁寧なのね」
優雅な微笑みを浮かべるエレノア。
その仕草の一つ一つが、ゲームで見た通りの気品に満ちていた。
「母上...!」
思わず椅子から飛び出し、エレノアに抱きつく。
「まあ!どうしたの、急に?」
「い、いえ! その...母上の...お傍にいたくて...!」
(ヤバい、完全に厨二病が漏れてる)
「ふふ、甘えん坊さんね」
エレノアは優しく息子の頭を撫でる。
その温もりに、誠の決意は固まった。
(絶対に...絶対に母上は守る。俺、アル様の全ルートを攻略した男だ。6歳の儀式での事故なんて、絶対に阻止してみせる...!)
「では、今日の教育を始めましょうか」
現れた家庭教師の前で、誠は冷や汗を流していた。
(まずい。3歳児がやたらと博識だと怪しまれる。でも、アル様の幼少期って、既に天才の片鱗を見せてたはず...)
「本日は基礎的な文字の練習から—」
「あ、あの! 我...私、重力の研究について!」
思わず口走った誠に、家庭教師は目を丸くする。
(しまった!ついアル教徒の知識で話そうとした!)
「重力、ですか?まあ、グラヴィティアス家の御子息ですもの。そちらの才能もいずれ...」
「母上は...!母上は重力の研究を!」
必死に3歳児らしく言い換えようとする誠。
しかし、その瞬間—
ペンが宙に浮いた。
「こ、これは...!」
家庭教師が驚きの声を上げる。
誠自身、自分の意識より先に、体が反応したことに戸惑っていた。
(マジか...無双ゲームでさんざんやったグラビティ操作が...!)
「素晴らしい...!これほど早くから才能が...!」
(よし、これなら怪しまれずに...って、あれ?)
浮いていたペンが、突然様々な方向に暴れ出す。
(ちょ、待って!ゲームのコマンド入力と全然違う!コントローラーのR2押せば...って、そんなものあるわけないじゃん!)
「アレクサンダー様!落ち着いて!」
「うおおお!どうすりゃいいの!?」
慌てふためく誠の叫びに、エレノアが駆けつけてきた。
「アレクサンダー!」
「母上!この力、制御が...!」
その瞬間、エレノアが優しく誠を抱きしめる。
不思議と、暴走していた重力が収まっていく。
「大丈夫よ。母さんがついているわ」
(あ...これが、アル様が本当に欲しかったもの...)
突如として湧き上がる感情に、誠は幼い体で精一杯の言葉を紡ぐ。
「...ありがとう、母上」
人生初の、厨二病が入らない純粋な感謝の言葉だった。
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