第3話

鉄製の門は大きく開いており、駐車場には、既に五台の乗用車が停まっている。水樹たちも車を降りて、屋敷を目指して歩き出した。

駐車場から入り口までも、また遠い。足元では、灰白色の御影石の硬い表面が靴底を通じて感じられ、石同士がぶつかり合う小さな音が、静寂を破った。風が吹くと、何本もある松の木がささやくように揺れ、その暗い緑色の針葉が生み出すざわめきが耳に心地よい。

屋敷へと続くこの道を通ると、時計の針が動く「カチカチ」という音が遠く聞こえ、異世界に踏み入るような感覚に襲われた。

「石畳が剥げている部分がありますね。少し、歩きづらいでしょう。気を付けてくださいね」

理人が、杖を突いている水樹の足元を見て、眉を下げる。水樹は気遣いに感謝の意を述べて、歩みを進めていった。水樹は、過去の交通事故で足を大怪我し、それから歩行が多少困難である。車椅子を使うほどではないが、山の寒さが関節の痛みを強めた。

扉は大きな鉄製で、鳩を模した鳥の飾りのついたドアノックハンドルがついている。

「時計と言えば鳩。ドアノックハンドルにすら、時計へのリスペクトがあって、実に素晴らしい」

水樹は軽く唸った後、そのドアノックハンドルを使ってドアを叩いた。

ややあって、さび付いた音を立てて、ドアが開く。其処には、茶を基調としたクラシックなメイド服に身を包んだ、セピア色の長髪の女性が立っていた。

「お客様、大変失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

淡々と問われ、水樹たちも順に名乗っていく。

「不躾な質問をして申し訳ありませんでした。私の名前は小泉(こいずみ)綺羽(きは)。これからミステリー会の間、皆さんのお世話をさせていただきます。何かございましたらお申し付けください。よろしくお願いいたします」

「ありがとうございます」

三人は声を揃え、同じく頭を下げた。綺羽は楚々と中を手で指し示す。手には白い手袋をはめていた。

「まずは、お客様たちがお泊りになられるお部屋にご案内いたします」

綺羽はそう言うと、長い廊下を歩きだしてしまう。陽希が、天井にかかったシャンデリアを見上げ、はしゃいでいたので、水樹はそれに軽く肘鉄を食らわせ、三人で後を追いかけた。

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