第37話 相思相愛

 俺は米国に留学し、かの地で弁護士を目指していた。


 留学して数か月が過ぎ、ようやく現地での生活にも慣れ始めた頃だった。

 アパートに帰ると、大きなスーツケースに腰掛けた女性が、ドアの前に佇んでいた。


 俺の胸に懐かしさがこみ上げてきた。なんと、葵姫だった。


「ひ、姫様、何やってんですか、こんなところで」


「なにやってるじゃないですよ。京都では、あんなに絶対離さないって約束したのに、黙っていなくなってしまうなんて、ひどいです、ひどすぎます」

 彼女は泣きながら、俺の胸を叩いた。


「と、とにかく部屋に入りましょう」


 葵姫は、俺がいなくなった後のことを話してくれた。

 姫様たちは、冴島さんも含めて何度も話し合ったそうだ。

 米国にいることは冴島から情報の提供があった。この場所を探り当てたのも冴島さんだそうだ。

 終始冴島さんは姫様たちに協力的だったそうだ。、俺のことを思って、という可能性は低いだろうが、彼女のミッションは法改正、女王容認という形で決着がつき、ミッション終了ということになったのだろう。


 誰が俺を追いかけるかについては、冴島さんから「一人なら協力する。二人以上は大きなスキャンダルになるからダメ」とのことだった。


 菫姫はそもそもがお世継ぎを産むことが目的だったし、まだ小学生だし、その意思なし。星姫は最後まで未練たっぷりだったけど、葵姫の気持ちは固かった。


「翔太様以外の方となんて、私には、絶対に、絶対に無理。どうしても私が行きたいと言いはったんですよ」

 冴島には「あなたは継承権第一位だから自重なさるべき」と意見されたけど、私の強い気持ちにとうとう冴島も折れた。


「王位は雅姫が継いでくれるでしょう。NAHAマラソンで、庶民派で型破りな姫様と人気が出たみたいだし、本人もたくさん応援されて自覚を持ったみたい」


 一旦そうと決まったからには、全員一致協力して、葵姫を愛の逃避行に送り出そうということになった。


「でも、王位継承権一位は葵姫、あなたであることに変わりはないのでは?」

 という俺の問いに、彼女はこともなげに答えた。


「新しい法律の施行は早くとも来年、それまでに籍を入れてしまえば、現行の王室典範の定めるところにより、私は王室を離れて、ただの綾小路葵ですわ」


「それよりも、女にここまでさせて、翔太様、いえ、翔太さん、あなたはどうするのですか」


俺は、ためらわずに、彼女に告げた。


「葵姫、いや、葵さん、俺と結婚してください」

「はい、翔太さん」


 俺は彼女をしっかりと抱きしめた。

「半年以上も放っておかれて、私、たまってるんだから。もう、今夜はたっぷりかわいがってね」


 俺の身体の方も敏感に反応した。その変化に気が付いた葵さんは、自分も身体を擦り付けて来た。

「それとも、今から、する?」


「するって、何を?夕食の準備ですか?」

「…いじわるね。いいわ、何を食べたいの?」


 俺も、彼女が愛おしくて、とても夜までなんて待ってられない。

「葵さんを、今すぐ、食べたい」


 俺は、葵さんをお姫様抱っこすると、ベッドに運んだ。



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王位継承者のお嫁さん選び 廣丸 豪 @rascalgo5

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