王位継承者のお嫁さん選び

廣丸 豪

プロローグ、または青天の霹靂≪へきれき≫

 この奇怪な事態は、とある夏の夜、大学から自宅アパートへの帰宅途上の電車の車内から始まった。


 座っていた俺の前で、若い女性が、俺になにやら訴えてくるような眼差しを向けてきた。ややっ、隣のおっさんが、なにやら彼女の美尻をまさぐっているではないか。

 痴漢である。あからさまな、堂々とした痴漢行為!

 

 痴漢野郎は最悪けんかになっても問題なく勝てそうな貧相なおっさん、一方、女性は吉高由里子似の美女、これは行動にでない手はない。


 「おい、何やってんだ!」

 俺はすかさず立ち上がっておっさんの腕をつかんだ。


 折しも電車は駅に到着、俺は男の腕をつかんだまま、女性と三人で電車を降りた。

 駅員に通報して痴漢野郎を突きだそうとしたところで、女性に止められた。


「え、いいんですか?」


「助けていただいてありがとうございました。でも、大事≪おおごと≫にしたくないので。それより、なにかお礼をさせていただきたいのですが、今から少しお時間、ありますか?」


 特に用事はなかったが、あったところでこんな美女のお誘いを断るわけはない。

「ええ、時間あります。まるっきり暇です」


「私、冴島遥と言います。公務員をしております」


「あ、俺、いや、僕、私、綾小路翔太といいます。大学三年生です」


 俺がおっさんをリリースすると、互いに簡単な自己紹介を交わすと、彼女は俺の手を取って改札を出た。駅前でタクシーに乗り込むと、彼女の告げた行先は俺でも知っている高級ホテルだった。


 場違いな場所に戸惑う俺をロビーで待たせ、彼女は慣れた様子でホテルのコンシェルジェと話をして戻って来た。

「あいにくお目当てのレストランが満席だったので、お部屋でルームサービスをいただきましょう」


 いやいや、痴漢から助けてもらったくらいで初対面の男をホテルの部屋に連れ込みますか、普通。それも一介の公務員が。

 この時点でかなり怪しいと思ったのだけど、美女のお誘いに好奇心が勝って止めが効かなかった。


「それじゃ、お部屋に参りましょう」


 夜景の見える角部屋のセミスイートのお部屋で、彼女が注文したワインと食事を美味しくいただいた。

  食事が終わると、ほろ酔い風情の遥さんはベッドに腰掛け、「ねえ」と甘えた声でマットをぽんぽんする。

 

 お約束の展開というか、結局俺は、成り行きに任せ、食事に続き、彼女の身体も美味しくいただいてしまったのだった。



 翌朝、すっかり身なりを整えた冴島さんに起こされた。

 なんと、隣には昨日の痴漢男が立っているではないか。

 やはり美人局≪つつもたせ≫か、やられた、完全にやられたと思ったが、そこで発せられた男の言葉は、俺の想像のはるか上を行っていた。


「実は私、王室庁の役人の瓜生≪うりゅう≫と申します。突然ですが、あなた様は我が国の王位継承権を持っておられます」



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