episode2 反撃の詩、王女は死神と嗤う

№Ⅰ Grim Reaper

 聖戦せいせん――――


 それは次の絶対神ぜったいしんなる存在を決める戦い。

 22の選ばれし鎮魂アルカナが一人の人間を選び、〈契約者〉を生み出し、代理戦争をおこなう。


 見事おのれの契約者を優勝させた魂は次の絶対神となり、世界の秩序を手の内におさめることができる。



【なーんてことがあってな。俺も一応、選ばれちゃったから。どこかに面白い人間いないかなー、って思ってたらビックリ! グリム王家なんつー俺専用の一族を発見しちゃったわけよ。こりゃ、死神のうつわを持つ俺がアンタを選ばないわけにはいかないなって話】



 聞き覚えのある声、聞き覚えのある名前。間違いない、私の隣人だったリーパーその人だ。


 暗く笑う私に対し、納得できないという表情で死神は肩を揺らした。


【ようお姫様。なんだよ、その顔は。もっと驚いてくれていいんだぞ?】


「ちゃんと驚いてるわ。そう。あなた、亡霊だったのね……ふふ。契約、ね」


 私は部屋にある鏡で自分の姿を見る。


「……醜い」


 父から受け継いだ金色の髪は白く染まり、母譲りの美貌には真っ黒な髑髏の痣が浮かび上がった。瞳は血のように紅く、肌は死人のように白い。生まれ持ったからだは変貌をげた。両親から受け継いだ躰との決別は、両親によって育てられた潔癖で可憐な王女シャーリー=フォン=グリムとの決別を意味しているのかもしれない。


【俺は今の姫様の方が、好みだがね】


 そ。と死神の口説き文句をスルーし、私は右手に力を込める。すると右手に数え切れぬ血管が浮かび上がった。



 力がみなぎる。



 飛ぼうと思えば天まで届きそう……まさに人智を越えた力。


――『死後の自分の魂を売り渡すことで亡霊と契約し、人知を超えた力を手に入れる。そうやって契約術を身に着けた人間を〈契約者〉と言う』――


「これが、契約者の力……」


【どうだ? 素晴らしいだろ? だろだろ? これから俺達はパートナー、と言ってもメインはアンタで俺はサポートだ。あくまで亡霊だから直接干渉はできないんだ俺。暴れてくれ~、お姫様】


 死神リーパーは空に浮きながら寝っ転がったり、逆さになったりと陽気に振舞う。


 死神……と言う割には明るい男だ。口元以外を髑髏の面で隠しているせいで顔は輪郭程度しか把握できないが、よく回る舌に見合うだけの顔立ちはしていそうだ。


「死神……私と契約したからには、死ぬほど働いてもらうわ……」


【いいぜ。報酬はもう確約されている。振舞えよ、この俺の“再生の力”をな……。まずなにをするんだい? シャーリーお姫様】


 まずなにをするか?


「決まっているでしょう」


「……しゃ、シャーリーさまぁ……」


 地面に転がるアル。その右手首から先は無く、両脚も捻じれていた。さっきのかまいたちに巻き込まれたか。


「た、たすけ、たすけて――」


 私はゴッ!!! とアルの頭を踏みつぶす。赤黒い液体が足の裏にべったりとくっついた。


「ふふっ」


 それから何度も何度も何度も何度も、アルの頭蓋骨が砂と化すまで踏みつぶした。



「ふふふふ、ふあははははあっはあははははははははははーーーーーー!!!!!!」



 私は顔を歪め、悦楽の表情を浮かべる。


「……フェルディア=ユーリシカを殺す。奴につらなる帝国の民も殺す! 皆殺しだ!!! ――私の尊厳を踏みにじった畜生共に、我が王国に泥を塗った狼藉者ろうぜきもの共に! 業炎ごうえん煮えたぎるかまの底を見せてやる!!!」


【そうこなくっちゃな】


「あと死神、一つだけお願いがあるわ」


【なんだい?】


 私はヘレンにあげた真っ黒なドレスを掴み取り、破きながら強引に着た後、ドレスの破れた部分を着こなす。




「私のことは“グリム”と呼びなさい。私とあなたは二人でGrim Reaper……その方が恰好つくでしょう?」




 私の提案に、死神は心底嬉しそうに笑った。


【ははっ! ――悪くない】


「あと、聖戦なんて興味ないから。参加する気もなし」


【え!? ……まぁいっか。アンタの復讐劇見る方が面白そうだ】


 私とリーパーは互いに愉快気ゆかいげに顔を合わせた後、騒ぎを聞きつけやって来た帝国兵の臓物でレッドカーペットを作り上げた。


 さぁ、始めましょう。シャーリー=フォン=グリム――いや、Grim Reaperが織りなす復讐劇を……。



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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