元勇者、ブラック企業に勤める

@ikkyu33

元勇者、戻ってくる



異世界で伝説を築き上げた男がいた。その名はリュウ。剣と魔法の力で数多の魔物を倒し、魔王すらも討伐した勇者中の勇者。異世界の人々から「光の守護者」と称えられ、名誉と富、そして彼に感謝する多くの人々の笑顔をその手にしてきた。


だが、その伝説は終わりを告げた。最後の戦いを終え、異世界に平和が訪れた――その瞬間、リュウは突然、不思議な力に巻き込まれ、異世界からはじき出されてしまったのだ。


目を開けると、そこは見知らぬ街。無機質なビルが立ち並び、行き交う人々は皆、冷たい目をしていた。


「ここは…どこだ?」


一瞬、動揺したものの、リュウはすぐに自分が「現代日本」に戻ってきたのだと悟る。異世界での力は健在だ。だが、そこには魔物も魔法も存在しない。この新たな世界で、自分はどうやって生きていけばいいのか――そんな思いを抱きながら、彼は途方に暮れていた。


そんな折、街角で見つけた一枚の貼り紙が目に留まった。


「仲間求む!熱意ある方なら未経験OK!やる気次第でどこまでも成長できる環境!」


掲げられたスローガンに、リュウの心は躍った。


「未経験でも構わぬというのか?ふむ、異世界にいた頃も、俺は戦士として何も知らぬまま戦いの道を進んできた。ならばここでも同じだ!」


こうしてリュウは、謎に包まれたブラック企業「ヴォルケン商事」の面接を受けることになった。部屋に入るや否や、面接官は冷徹な視線で彼を見据えた。


「我こそは、かつて異世界で魔王を討ち果たした元勇者リュウである!この会社を導く力を持つのは他ならぬ俺だ!」


そう名乗りを上げた瞬間、面接官の表情がピクリと変わる。だが、次の瞬間にはすっかり無表情に戻り、「……まあ、意気込みはわかりました。では、やる気があるなら採用です。明日から出社してください」と冷たく告げた。


リュウは、面接官の審判に勝利した気分でその場を去った。


「ふはは、初陣から我が名を轟かせたな!まずはこの『ブラック企業』とやらの全貌を知り、手を貸してやろう」


こうしてリュウの「新たな冒険」が幕を開けるのだった。だが、彼はまだ知らない。この会社で待ち受ける「現代の魔王」たちの存在を。そして、彼の冒険心に火をつけた新たな挑戦が、いかに過酷なものかを──。

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