誤魔化し

「どうしたんですか?」

「んー…何かね、お姉さんから黒い靄が出てる様に見えたの」

「靄?」

「さっきもモヤモヤ〜って出てたけど…あれ消えちゃった」

「あらら擦っちゃ駄目よ?ちょっと見せて頂戴」


エムエムはコタロー君の両頬に、手を添え上を向かせ覗き込んだ。


「見た所異常は無い様だけど…いつから?」

「今日からだよ」

「痛みとか違和感は?」

「全然」

「ん〜…あんまり薬使うと自然治癒力が弱まるから、暫く様子を見て異常があったら目薬出すわね」

「はーい」

「それよりちょっとクマ酷いわよ?ちゃんと夜眠れてる?」

「うん、いつもぐっすりだよ」

「…ん〜〜〜っ♡」

「!?っ」


ゴスッ!!


私はコタロー君に口付け様としたエムエムの脳天を、力の限り鉄扇でぶん殴った。


「一体何をやってるんですか」

「美味しそうな顔だったから…つい♡」

「さっさと検査終わらせて帰って下さい、ほらコタロー君も早く上着脱いで」

「はーい」

「あらこれちょっと凹んじゃったかも…2kgの鉄棒で殴られたんだから、もしかしたら頭蓋骨陥没したんじゃないかしら」

「どうせすぐ治るんでしょ?」

「まぁねん♡」

「脱げたよー」

「じゃあ検査始めるわよ、背中見せて座って頂戴」

「はーい」


上着を脱いだコタロー君に呼ばれ、ようやくエムエムは診察を始めた。


「んー傷の経過は良好ね、ちょっとヒビ入っていた箇所を押してみるから、痛かったら言ってねー…痛い?」


そう言ってエムエムは、コタロー君の骨にヒビのあった箇所を指圧する。


「ううん、大丈夫だよ」

「なら肩以外はほぼ完治ね〜、次は一番酷い肩を見るわよ…ん〜見た目は良好ね♡これならもうガーゼいらないわ」


私も後ろからエムエムがガーゼを剥がした右肩の傷を眺める、あれだけ酷かった怪我が一週間でもうほぼ完治している…本当に腕だけは確かですね。


「ちょっと動かすわ、銃弾が貫通してたんだから痛かったら無理せずに言ってね?」


エムエムはコタロー君の右手を持ち、肩を上げたり回したりする。


「痛い?」

「んー、ちょっと痛むけど大丈夫だよ」

「…せっせっせーのよいよいよい♪」

「!」

「アーループースー一万しゃーくーこーやーりーのうーえでー♪」

「アールーペーンおーどーりーをーさぁ踊り・ま・しょ♪」


突然2人はアルプス一万尺をやり始めた。


「…何をやってるんですか?」

「ん?我慢して診察を誤魔化してないかの子供用肩の動作性チェックよ、特に痛がってる様子も無いし本当に大丈夫みたいね」

「え?僕が嘘ついてると思ったの?」

「軍で多いのよ、本当は辛いのに隠しちゃう子供…知ってる?子供の内から軍に勤める子は必ずと言って良いほど、体調不良を起こしちゃうのよ」

「え?何で?」

「理由は様々あるわね、まず子供がたった1人で大人に囲まれ生活するのはかなりのストレスになるわ、只でさえそんな状態なのに夜遅くまで仕事しなきゃならないし、軍に同年代の子なんてそうそういないから休憩時間も1人でいる事が多いから、子供のストレス発散法である“遊ぶ”がなかなか出来なくて、ストレスが蓄積されてく一方なのよ」

「そうか仕事するって事は遊べないって事なのか」

「年に何人ぐらいの天才の子供が、軍に行く事になってるのですか?」

「ん〜年に1〜2人程度かしら?日ノ本軍では早熟児かどうかとか吟味したり、軍で働いて支障は無いかとか色々審査した上で、スカウトする様になっているわ」

「早熟児って子供の内は天才、大人になったら只の人?」

「あら良く知ってるわね」


ナナシお姉さんに教えて貰ったの、と答えるコタロー君にエムエムは偉い偉いと頭を撫でた。

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