6・3・6 ひとの大いなる勘違い

○前段


1 : Die Welt ist alles, was der Fall ist.

世界は全てである。あらゆる何か、その現象がそこにあるに依る。


2 : Was der Fall ist, die Tatsache, ist das Bestehen von Sachverhalten.

何が提示されているのか。事実・現象とは事態が実在することである。


3 : Das logische Bild der Tatsachen ist der Gedanke.

事実・現象の論理上の像が、思考である。


4 : Der Gedanke ist der sinnvolle Satz.

思考は意味のある命題である。


5 : Der Satz ist eine Wahrheitsfunktion der Elementarsätze. (Der Elementarsatz ist eine Wahrheitsfunktion seiner selbst.)

命題は要素命題の真理関数である。 (要素命題はそれ自体の真理関数である。)


6 : Die allgemeine Form der Wahrheitsfunktion ist: [p¯,ξ¯,N(ξ¯)].. Dies ist die allgemeine Form des Satzes.

真理関数一般は、[p¯,ξ¯,N(ξ¯)]と書ける。これは命題の一般形式である。


ここまでのまとめ:

「世界」より「命題」を引き出している。


 世界→事実・現象の集合体。

 事実・現象→事態の集合体。

(事態は更にこと・ものに分解される)


(主体は世界と像の境界として存在する)


 事実・現象を観測する→像。

 像の具体化(→写像化)→思考。

 思考の有意味化→命題。


 命題の「語りえること」を最大化するため、

 まずは命題を最小点(要素命題)にまで分解し、

 全ての命題を最小点の組み合わせにまで深める。



6.1 : Die Sätze der Logik sind Tautologien.

論理命題はトートロジーです。


6.2 : Die Mathematik ist eine logische Methode. Die Sätze der Mathematik sind Gleichungen, also Scheinsätze.

数学は論理的な方法です。数学の定理は方程式、つまり擬似定理です。


6.3 : Die Erforschung der Logik bedeutet die Erforschung aller Gesetzmäßigkeit. Und außerhalb der Logik ist alles Zufall.

論理の研究はすべての法則の研究を意味します。そして論理の外ではすべてが偶然です。

6.31 : Das sogenannte Gesetz der Induktion kann jedenfalls kein logisches Gesetz sein, denn es ist offenbar ein sinnvoller Satz. - Und darum kann es auch kein Gesetz a priori sein.

いわゆる帰納法は、明らかに合理的な命題であるため、論理法則であることはできません。 - だからこそ、それはアプリオリな法則ではありえないのです。


6.32 : Das Kausalitätsgesetz ist kein Gesetz, sondern die Form eines Gesetzes.

因果律は法則ではなく、法則の形式です。


6.33 : Wir glauben nicht a priori an ein Erhaltungsgesetz, sondern wir wissen a priori die Möglichkeit einer logischen Form.

私たちは保存則を先験的に信じていませんが、論理形式の可能性は先験的に知っています。


6.34 : Alle jene Sätze, wie der Satz vom Grunde, von der Kontinuität in der Natur, vom kleinsten Aufwande in der Natur etc. etc., alle diese sind Einsichten a priori über die mögliche Formgebung der Sätze der Wissenschaft.

理性についての命題章、自然界の連続性についての命題章、自然界の最小の努力についての命題章など、これらすべての命題章は、科学の命題章の可能な形式についてのアプリオリな洞察です。


6.35 : Obwohl die Flecke in unserem Bild geometrische Figuren sind, so kann doch selbstverständlich die Geometrie gar nichts über ihre tatsächliche Form und Lage sagen. Das Netz aber ist rein geometrisch, alle seine Eigenschaften können a priori angegeben werden. Gesetze wie der Satz vom Grunde, etc. handeln vom Netz, nicht von dem, was das Netz beschreibt.

写真の中の点は幾何学的図形ですが、もちろん、幾何学は実際の形状や位置については何も語れません。しかし、ネットワークは純粋に幾何学的なものであり、その特性はすべて事前に指定できます。理性原理などの法則は、ネットワークを扱うものであり、ネットワークが記述する内容を扱うものではありません。


6.36 : Wenn es ein Kausalitätsgesetz gäbe, so könnte es lauten: »Es gibt Naturgesetze«. Aber freilich kann man das nicht sagen: es zeigt sich.

因果律があるとすれば、「自然法則がある」と言えるでしょう。しかし、もちろんそうは言えません。それは示しています。


○派生図


6001

|……

├31

|├211

|├3

|├41

||├2

||└31

|| └2

|├5

|├6111

||├2

||└311

|└71

| ├2

| ├3

| ├4

| └51




6.36 : Wenn es ein Kausalitätsgesetz gäbe, so könnte es lauten: »Es gibt Naturgesetze«. Aber freilich kann man das nicht sagen: es zeigt sich.

因果律があるとすれば、「自然法則がある」と言えるでしょう。しかし、もちろんそうは言えません。それは示しています。


6.361 : In der Ausdrucksweise Hertz´ könnte man sagen: Nur gesetzmäßige Zusammenhänge sind denkbar.

ヘルツの言葉で言えば、「法則のようなつながりだけが考えられる」ということです。


6.3611 : Wir können keinen Vorgang mit dem »Ablauf der Zeit« vergleichen - diesen gibt es nicht -, sondern nur mit einem anderen Vorgang (etwa mit dem Gang des Chronometers). Daher ist die Beschreibung des zeitlichen Verlaufs nur so möglich, dass wir uns auf einen anderen Vorgang stützen. Ganz Analoges gilt für den Raum. Wo man z.B. sagt, es könne keines von zwei Ereignissen (die sich gegenseitig ausschließen) eintreten, weil keine Ursache vorhanden sei, warum das eine eher als das andere eintreten solle, da handelt es sich in Wirklichkeit darum, dass man gar nicht eines der beiden Ereignisse beschreiben kann, wenn nicht irgendeine Asymmetrie vorhanden ist. Und wenn eine solche Asymmetrie vorhanden ist, so können wir diese als Ursache des Eintreffens des einen und Nicht- Eintreffens des anderen auffassen.

私たちはいかなるプロセスも「時間の経過」と比較することはできません - これは存在しません - 別のプロセス (クロノメーターの速度など) とのみ比較することができます。したがって、時間の経過の記述は、別のプロセスに依存する場合にのみ可能です。同じことが空間にも当てはまります。たとえば、一方が他方ではなく発生する理由がないため、2 つのイベント (相互に排他的) はどちらも発生しないと言う場合、実際に起こっていることは、2 つのイベントのうちの一方はまったく発生しないということです。イベントを説明できます。いかなる種類の非対称性も存在しない場合。そして、そのような非対称性が存在する場合、それが一方の発生と他方の非発生の原因であると解釈できます。


6.36111 : Das Kantsche Problem von der rechten und linken Hand, die man nicht zur Deckung bringen kann, besteht schon in der Ebene, ja im eindimensionalen Raum, wo die beiden kongruenten Figuren a und b auch nicht zur Deckung gebracht werden können, ohne aus diesem Raum herausbewegt zu werden. Rechte und linke Hand sind tatsächlich vollkommen kongruent. Und dass man sie nicht zur Deckung bringen kann, hat damit nichts zu tun. Den rechten Handschuh könnte man an die linke Hand ziehen, wenn man ihn im vierdimensionalen Raum umdrehen könnte.

一致させることができない右手と左手に関するカントの問題は、すでに平面内、実際には 1 次元空間内に存在しており、そこでは 2 つの合同な図形 a と b は、この空間から出てこなければ一致させることができません。退去させられること。実は右手と左手は完全に一致しています。そして、彼らに隠蔽させることができないという事実は、それとは何の関係もありません。四次元空間で向きを変えることができれば、右の手袋を左手にはめることができます。


6.362 : Was sich beschreiben lässt, das kann auch geschehen, und was das Kausalitätsgesetz ausschließen soll, das lässt sich auch nicht beschreiben.

記述できることは起こる可能性もあり、因果律で除外されると考えられているものも記述できません。


6.363 : Der Vorgang der Induktion besteht darin, dass wir das einfachste Gesetz annehmen, das mit unseren Erfahrungen in Einklang zu bringen ist.

帰納のプロセスは、私たちの経験と調和できる最も単純な法則を仮定することにあります。


6.3631 : Dieser Vorgang hat aber keine logische, sondern nur eine psychologische Begründung. Es ist klar, dass kein Grund vorhanden ist, zu glauben, es werde nun auch wirklich der einfachste Fall eintreten.

このプロセスには論理的な正当性はなく、心理的な正当性があるだけです。最も単純なケースが実際に起こると信じる理由がないことは明らかです。


6.36311 : Dass die Sonne morgen aufgehen wird, ist eine Hypothese; und das heißt: wir wissen nicht, ob sie aufgehen wird.

明日太陽が昇るというのは仮説です。つまり、それがうまくいくかどうかはわかりません。


6.37 : Einen Zwang, nach dem Eines geschehen müsste, weil etwas anderes geschehen ist, gibt es nicht. Es gibt nur eine logische Notwendigkeit.

何か他のことが起こったからといって、どちらのことが起こらなければならないという強制はありません。論理的必然性は 1 つだけです。


6.371 : Der ganzen modernen Weltanschauung liegt die Täuschung zugrunde, dass die sogenannten Naturgesetze die Erklärungen der Naturerscheinungen seien.

現代の世界観全体は、いわゆる自然法則が自然現象の説明であるという妄想に基づいています。


6.372 : So bleiben sie bei den Naturgesetzen als bei etwas Unantastbarem stehen, wie die Älteren bei Gott und dem Schicksal. Und sie haben ja beide Recht, und Unrecht. Die Alten sind allerdings insofern klarer, als sie einen klaren Abschluss anerkennen, während es bei dem neuen System scheinen soll, als sei alles erklärt.

そこで彼らは、神と運命についての長老たちと同じように、不可侵なものとしての自然の法則に止まります。そして、それらはどちらも正しくて間違っています。ただし、古いシステムは明確な結論を認識するという点でより明確ですが、新しいシステムはあたかもすべてが説明されているかのように見えます。


6.373 : Die Welt ist unabhängig von meinem Willen.

世界は私の意志とは無関係です。


6.374 : Auch wenn alles, was wir wünschen, geschähe, so wäre dies doch nur, sozusagen, eine Gnade des Schicksals, denn es ist kein logischer Zusammenhang zwischen Willen und Welt, der dies verbürgte, und den angenommenen physikalischen Zusammenhang könnten wir doch nicht selbst wieder wollen.

たとえ私たちが望むことがすべて起こったとしても、これはいわば運命の恵みにすぎません。なぜなら、これを保証するような意志と世界との間には論理的なつながりがなく、想定されている物理的なつながりを作り出すことができないからです。私たちもまた欲しいです。


6.375 : Wie es nur eine logische Notwendigkeit gibt, so gibt es auch nur eine logische Unmöglichkeit.

論理的必然性が 1 つだけあるのと同様に、論理的不可能性も 1 つだけ存在します。


6.3751 : Dass z.B. zwei Farben zugleich an einem Ort des Gesichtsfeldes sind, ist unmöglich, und zwar logisch unmöglich, denn es ist durch die logische Struktur der Farbe ausgeschlossen. Denken wir daran, wie sich dieser Widerspruch in der Physik darstellt: Ungefähr so, dass ein Teilchen nicht zu gleicher Zeit zwei Geschwindigkeiten haben kann; das heißt, dass es nicht zu gleicher Zeit an zwei Orten sein kann; das heißt, dass Teilchen an verschiedenen Orten zu Einer Zeit nicht identisch sein können. (Es ist klar, dass das logische Produkt zweier Elementarsätze weder eine Tautologie noch eine Kontradiktion sein kann. Die Aussage, dass ein Punkt des Gesichtsfeldes zu gleicher Zeit zwei verschiedene Farben hat, ist eine Kontradiktion.)

たとえば、2 つの色が同時に視野内の 1 つの場所に存在することは不可能であり、色の論理構造によって除外されるため、論理的に不可能です。この矛盾が物理学でどのように現れるかを考えてみましょう。次のようなものです。粒子は同時に 2 つの速度を持つことはできません。つまり、同時に 2 つの場所に存在することはできません。つまり、同時に異なる場所にある粒子は同一であることはできません。 (2 つの基本命題の論理積がトートロジーでも矛盾でもないことは明らかです。視野内の点が同時に 2 つの異なる色を持つという記述は矛盾です。)


6.4 : Alle Sätze sind gleichwertig.

すべての文は同等です。




 世界は論理に満たされており、我々はそのあらわれようのみを語れるが、「それがなんであるか」を語ることはできないし、まかり間違っても支配し、操作することなどかなわない。にもかかわらず現代人たちはそのあらわれようを語るだけで、さも支配ができたかのよう思い込む。バーカバーカ。


 ってヴィトちんがいってました。こわーいあのひと。


 この世に因果律なんてもんがあるとしたら、それは自然法則以外にないでしょとか、とにかく既存哲学用語へのヘイトがひどい。4とか読んでたときに「真理関数ってなんやねん」、と言うか何を指して真理って言っとんねんこのひと、とか考えてたんだが、ここもわりとえげつねえ語法をぶち決めていた。


 この世で真理と言えるものは何か。とある現象が現れていることであり、とある現象が現れていないことである。これだけが動かしようもなく確かなことである。この、動かしようもなく確かなことがどのようにあらわれ、あらわれないかの判定を関数によって確かめる。だから「真理」関数。なんだこれ、めちゃくちゃ皮肉な命名過ぎん? なんとなく感じないではなかったけど、ヴィトちんかなり性格悪いよね?


 世界の法則を見抜いたとおこがましくも考えたすべての皆様へ、バーカバーカ、みたいなノリをこの辺の語法たちから感じざるを得ない。んで、もういい加減みなさまも飽き飽きだと思うんだけど、莊子もこの辺をあざ笑うような言葉をいくつも残している。その中でも特一級で「うっわこいつめちゃくちゃ性格悪ッ」って思った章句を紹介したい。


夫道未始有封,言未始有常,為是而有畛也,請言其畛:有左有右,有倫有義,有分有辯,有競有爭,此之謂八德。六合之外,聖人存而不論;六合之內,聖人論而不議。


「道」すなわち世界とは全てが融和された区切りなきものであった。しかし誰かがそこに勝手に区切りを加えはじめ、右だの左だの、倫理だの道義だの、分別だの弁別だの、競うだの争うだのとごちゃごちゃわめきはじめた。まったくもってご立派な八つの「徳」であることよ。いやそこに徳って言葉使う!?


 ついでなのでそのあとの言葉を一緒に置いておきます。六合、つまり「世界」の外について聖人は語らないし、内側についても語りはするが評価はしない。この言葉に出会った瞬間、「うっわこれまんまヴィトゲンシュタインじゃん!」と驚愕したものなんですが、まぁ『論考』読んでみて、思った以上に親和性高かったですわね……なんでこのこと誰も言い出してないのかよくわかんないレベルで。


 さあ、いよいよ最終盤。6.4および6.5には、どんなことが書かれて幕を閉じるのでしょうか。

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