第3話 お釣はこんだろ?
春の暖かい風が流れる4月中旬。
「へぇ。今年の10月に結婚式やるんだ。」
そう茜の話を聞いて登華は少し声を上げる。
「まぁね。あんた達にも招待状送るから絶対来てよ。」
そう茜が言うと登華は少し嫌な顔をする。
「何よ、その顔は。」
そう茜が目を鋭くして聞く。
「いや~ぁ。私も
「だから?」
「正直、行きたくないなぁって。」
そう登華が正直な想いを言うと茜は1つため息をこぼして笑顔を作る。
「あんたは相変わらず自分の感情に素直ね。まぁ、そこがあんたのいい所だけど。」
そう茜が言うと登華は申し訳なさそうに崩れた笑みを作る。
「ごめんね。代わりと言っちゃなんだけど、何かプレゼントさせてよ。」
そう登華に言われて茜は考える。
「だったら、画家らしく、絵でも
「絵?どんな?」
そう登華に聞かれた茜は小さなバッグからスマホを取り出すと1枚の写真を見せる。
そこには茜ともう1人、男性の姿が写っていた。この男性こそ、茜の恋人である。
「彼と初めてデートした時に撮った写真。これの絵を描いてよ。」
そう言われて登華は茜のスマホを手にとる。
「でも、私が描いてるのって、風景画だよ?人物画はそんなに描いた事ないけどいいの?」
そう登華が尋ねる。
「大丈夫よ。ほら、中学の時だっけ?
美術の授業の時に1回、ウチの絵を描いてくれた事あったでしょ?」
そう言われて登華は思い出す。
「あぁ、あったね。そんな事。」
「あの時の絵、めっちゃ上手かったじゃん。だから大丈夫よ。それに最近、名前が売れ出した画家に描いてもらった絵ってだけで結構価値はあるんだから。」
そう茜はニコニコと笑顔を見せる。
「さいですか。それなら、後で私のスマホにこの写真送っといて。」
そう言いながら登華はスマホを茜に返す。
「了解~。」
そう明るい声で言うと茜はスマホをバッグに戻す。
「あんた達はどうなの?」
「え?」
そう登華が抹茶を飲みながら聞き返す。
「結婚よ、結婚。
確か高校2年の時からだから、今年で7年でしょ?付き合って。」
そう言われて登華は少し考えるがすぐに首を左右に振る。
「結婚は想像できないかな。」
「え?なんで?」
そう茜が紅茶を飲みながら尋ねる。
「う~ん。今でも一緒に暮らしてるし、わざわざしなくてもいいかなって。
結婚って何がいいの?」
そう逆に登華が茜に尋ねる。
「そう聞かれると困るけど、多分、家族って言えるのが1番なんじゃない?」
そう茜は答える。
「家族…家族ねぇ。
・・・今の所、そこに魅力は感じないかな。」
そう登華が答える。
「…なんかそれもあんたらしいわね。」
そう茜は優しく微笑む。
※
登華と茜が喫茶店で楽しくお喋りをしている頃、幸壱は1人でランニングをしていた。
そんな幸壱に誰かが車のクラクションを鳴らす。
足を止めてその音に目線を向けると車の窓から1人の男性が顔を出す。
「
そう幸壱は驚いた声を上げる。
※
幸壱は中学から付き合いがある親友の
「お前、いつこっちに帰ってきたんだよ。」
そう幸壱は大助に尋ねる。
「ん?3日前だよ。」
そう大助がのんきな声で答える。
「だったら、連絡ぐらいよこせよ。」
そう文句を言いながら幸壱は大助の前にミルクティーを置く。
「いやぁな。急に家に行って驚かせてやろうと思ったんだけど、ランニングしてるお前を見つけてこっちが驚いちゃったよ。いつから運動大好き人間になったんだ?昔は運動なんか死んでもやらんとか言ってただろ?」
そう大助が尋ねる。
「そこまでは言ってねぇよ。
2ヶ月ぐらい前からだよ。
毎朝、登華と一緒に走ってんだ。
2ヶ月も同じ事をやってると習慣になってなぁ、今では暇な時があると走ってる体になっちまったよ。」
そう答えながら幸壱はミルクティーを1口飲む。
「やっぱり、
「やっぱり?」
そう幸壱が聞き返す。
「お前が大きく変わる時はいつでも安立さんの影響だろ?」
そう大助は微笑む。
「で?なんて言われたんだ?
運動不足だから、走れとでも言われたか?」
そう大助は詳しい事情を知りたがる。
そんな大助に幸壱はこの2ヶ月間の出来事を簡単に説明した。
「へぇ。登山ねぇ。
確かに安立さんは学生時代はずっと登山部だったって言ってたもんなぁ。」
そう大助は納得する。
「まぁでも、いいんじゃないか?」
「なにが?」
そう幸壱が聞き返す。
「お前は約24年間、ほとんど運動しないで生きてきたんだ。だから、これからの人生、毎日運動してもお釣がくるだろ。」
そう大助が話す。
「・・・嫌、これからの人生の方が長いんだから、お釣はこんだろ?」
「そうか?」
「そうだよ。」
そう幸壱は適当な親友に少し呆れた声で言葉を返す。
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