第19話 小さな食堂


 バスで撫順へ行き、万人抗を見学した後、附属の対日戦争勝利記念館の展示物を観た。

 戦時中の日本がしたことや、満州国が消滅し中国に残された元日本軍兵士達が収容所生活において改心していく過程を豊富な写真資料を用いて説明している。満州国皇帝溥儀の戦後のひっそりとした生活の様子が写真に残され、展示されていた。中国の観点から見た日本と日本人の姿は息をのむものがあった。

 一九四九年に文化大革命が起こり、中華人民共和国建国。国旗の意味は五つの民族の調和。満州でも五族協和が謳われていたが、実際には日本人が支配していた。でも中華人民共和国は違う、と記されている。掲げられた中国の地図を見ると、台湾は『台湾省』として中国の一部となっていて、中国大陸の東に位置する朝鮮半島や日本列島も、中国から見ると辺境のように描かれ、明記されているわけではないが、何か中国の一地方でもあるかのような描かれ方をしている。

 圧倒された気分で撫順の街を歩く。瀋陽と違い、人や車の往来も少なく、ゆったりと歩ける。道路は舗装されているが、あちらこちらに亀裂が走っていたり土がむき出しの所があり、少し埃っぽい。

 空腹を覚え、『水餃』と書かれた看板のある小さな食堂へ入ると、親子らしい女性二人が立ち働いていた。席に座ると、割に背のすらりと高い娘さんの方が中国語でまくし立ててくるが、メモ帳に字を書いて注文すると、どこから来たのか、と問われる。日本人だと答えると、飛び上がるようにして驚く。

 ちょうど他の客がいなくなったところで、注文した水餃子を食べていると、お母さんも厨房から出て来て、同じテーブルの向かいの席に腰を下ろし、娘さんは僕の隣りに来て座り、三人で筆談の会話が始まった。

 子供の頃、回りに日本人の子がいた。仲良く遊んでいた、とお母さんは懐かしそうに話す。長身の娘さんはアー、アイヤー、などの感嘆詞をよく使い、しょっちゅう笑った。隣りに座っているので、息遣いが近く感じられる。

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