俺を殺してお前も死ね
和達譲
『目で追う』
:第零話 欠落者の独白
俺の人生は、半分が惰性で出来ていると思う。
これまで続けてきたものを打ち切りにする理由もないから、とりあえずは目の前にある現実と付き合っていこうと。
明日を望んだことはなく、昨日を後悔したこともない。
迎えたい未来も、戻りたい過去もない。
ただ、今を生きている。
鏡に映る今の自分だけが、自分自身だと毎朝実感する。
こんな生活に、自分という人間に満足しているわけじゃない。
日々を生きていれば、不満に感じることも当然ある。
もう少し男前に成長していればとか、金持ちの家に生まれていればとか。
コンプレックスも抱えて生きている。
ただ、それらを足枷と思ったこともない。
自分の中に存在するコンプレックスやストレスを、いつの間にか当たり前に受け入れていた。
いつからか、眠れないほど悩むということをしなくなった。
たぶん、人として大切な何かが、俺は欠落している。
自覚はあるし、どうすれば人間らしい人間になれるのか、他人から嫌われたり愛されたり出来る生き物になれるのか。
そのための方法も、なんとなく知っている。
知っているのに、いざそこへ手を伸ばそうとすると、近付くほどに遠ざかっていくようで、いつまで経っても追い付けない。
空に浮かぶ太陽や月に向かって走っても、決して距離が縮まらないように。
友達はいるし、かつては恋人と呼べる相手もいた。
彼らは純粋に俺を好いてくれて、好かれていることが俺も嬉しかった。
なのに。
いつか彼らが俺の前からいなくなっても、俺はそんなに悲しまないんだろうなんて、冷めたことを思ってしまうのだ。
あの日、終わりにしようと別れを告げられた時も、分かったと返事をしてしまったように。
人間って、どうしてこう、難しい生き物なんだろうか。
もっと優しい男に、人の痛みを理解してやれる人間になりたいのに。
分からないことが多過ぎて、どこから手を付けたらいいのか分からない。
どうすれば俺は、俺の思い描く、理想の男になれるんだろうか。
『ごめんな、豊。
俺はいつも、大切なことだけを、お前に伝えられない』
いい人間になる方法なんて、明確な答えがないのは知っていた。
それでも、俺は答えてほしかったんだ。
たとえ正解じゃなくても、俺の気持ちに真っすぐに応えてくれる貴方の気持ちが、俺はずっと欲しかった。
だから俺は、せめて子供たちの疑問に答えてやれる大人になろうと思った。
無垢で清廉な幼い者たちが、俺のような頼りない大人に、欠陥人間になってしまわないために。
いい人間にはなれなくとも、勉強をすれば、少しは目標に手が届くから。
"先生"と、俺を頼ってくれるその顔に、声に、余さず向き合ってやりたいと思うから。
そして。
自分自身への問いにも答えを出すために、俺は教師になる道を選んだ。
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