悲しい演技技術
ボロアパートで狭い白石さんの部屋で一緒にノートパソコンでCMを見ていた。
内容としては今放送されているCMとは違って、新しいCMのようだった。
現在放送されている内容は、白石さんが飲料水を飲んでいる内容であった。
今回も食べ物系であり、ギョーザを食べているシーンであり数秒程度であった。
「こんな短い動画だけど凄い人が関わっているんだな」
俺はCMの素材を見ているので、多くスタッフや機材等を見て驚いた。
そして、この中でも緊張を見せずに演技する白石さんの胆力にも驚かされていた。
「うん。簡単な企画だけど大金が動いてるからね!そしてギャラもいいんだよ」
白石さんはニッコリとして、指でお金のジェスチャーした。
「これが放映される頃には、ドラマもグラビアも色々デビューで人気がまた凄いことになりそうだね」
「そうだね……。最初はこんなに仕事無かったんけどね、無名だし。でもインスタに載せた写真が人気になったことで、色々な仕事が舞い込んできたんだ」
CM撮影がこれで二度目だが、映像業界はスポンサーや広告等が重要だと聞く。
つまり映像業界で一定の評価を得ているからこその二度目のCM撮影なのだろう。
「確かに……インスタの投稿頻度も比較的他の女優より高いしな」
「そうだよ!私は最初にファンを多く作る事が何より大事だと思ってるんだ。色々な不都合があっても、なんとか切り抜けれるかもしれないし……」
白石さんは含みのある発言をして、それ以上は言わなかった。
なんとなく言いたくないのだろうと感じた俺はそれ以上詮索しなかった。
数分間俺達は無言でパソコンに映る動画を見ていた。
すると突然、白石さんはパソコンで先程撮影された素材を見て一人笑っていた。
「……改めて驚いた。私ってやっぱり綺麗だよね」
「うん、とても綺麗だ」
画面の向こう側にいる白石さんの演技は他の役者と比べても遜色ないと思えるほどに凄かったと思っている。
「例えばどんなところがよかった?」
隣にいる白石さんは真剣な顔をしながら身体を近づけてきた。
自身のいいポイントを第三者の目で客観的な評価が欲しいのだろうが……。
白石さんの綺麗な顔が吐息が当たる程に近い距離で尋ねられると流石に心臓が飛び出そうな程に緊張して、思わずのけぞってしまった。
「そ、そうだな。上手く言葉に出来るか自信はないけど、クラスでの落ち着いた雰囲気の白石さんがCMの数秒だけでも分かる程、元気で明るいってのだけが分かったよ。語彙力ないから伝わってるか分からないけど、ギョーザのCMでギョーザが美味しそうと思えるようなCMになってたと思うよ」
「そ…そっか。ありがと」
白石さんは俺に褒められて嬉しそうな表情を浮かべて、すぐに悲しそうな表情になった。
俺は何か嫌な事をしたのかと焦ったが……。
白石さんは続けざまに話した。
「この映像撮るのに何度も撮影して映像を見返しながら撮影したんだ。私の身体・表情を調整して、相手……この場合は視聴者によく見えるように分析したんだ」
白石さんの声のトーンが下がったような気がした。
「それって……」
「うん。私が中学時代に男たちと沢山エッチして覚えた特技なんだ……。まさか芸能界で活きるとは思わなかったよ」
白石さんは少し悲しそうな顔をしながらニコっと笑った。
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