zodiac secret~星座たちの真実~

沙木貴咲

1.最凶最悪Xデー

第1話

城桐中学校オカルト部は3年部員が3名しかいない廃部決定部。

剣道部の倉庫を部室代わりに使わせてもらっているが、そこはただの溜まり場になっていた。


 コンビニで買ってきたお菓子を食べながらドジ猫の動画を見たり、タロットカードで明日の運勢を占ったり。

たまに本領発揮で悩みのある人を募集して対面鑑定もするけれど、私はもっぱら受付係。

類まれな占いセンスを持つ真央には到底かなわなかった。

真央は霊感なんてないと言うけれど、きっと第三の目で見えない何かを見ているんだと思う。


 そんなオカルト部は今日、やたら静かでやたら退屈だった。

放課後はくだらない会話と意味のない遊びの時間。

受験に追われ神経が磨り減るなかで唯一の“お楽しみ”時間なのに。


 いや、約半年続いた受験モヤモヤ期が終わるからこそ、私たちはいつものように気楽ではいられないのかもしれない。


「真央、さっきから何見てるの?」


 九十度の角度で座る幼なじみの水城真央みずきまおはノートパソコンを開いてずっと無言だった。

私の問いかけにも「んー」と適当にうなるだけで目はモニターに釘付け。

私をいないモノにしているらしい。


「ねえ、真央?」

「んー」


 制服のネクタイを引っ張っても無表情。

無視されるのは面白くない。

五秒待って何も言わないのを確認すると、腰を浮かしてパソコンのモニターを無理やり覗き込んだ。


「ホロスコープ?」


 そこにはひとつのホロスコープが映し出されていた。

 西洋占星術で使われるホロスコープは運勢の地図。

十二の部屋に十の惑星を散りばめた円からは人の性格や恋愛傾向、仕事スキルがわかったり、その日の運気を読み解いたりする。


「鑑定、頼まれたの?」

「んー」

「これ、誰のホロスコープ?」

「んー」


 適当なうなり声は機械的に繰り返されるだけ。

真央は頬杖をついてノートパソコンを見つめたまま私を無視し続ける。


「このイチゴのチョコ食べていい?」

「んー」


 言ったな? そのうなりはイエスと解釈したよ。


「いただきます」


箱の中に残っていた最後の一個を口に放り投げようとして、額に鈍い痛みが走った。

真央がゴツンと乱暴に顔を寄せて、「あ」の口を開けながら私がつまんだチョコを必死に横取りした。

人差し指の爪に少し歯を立ててピンクのイチゴを奪っていく。


「これ僕の! 取らないで!」


口をモゴモゴさせながら、真央はしっかり所有権を主張してくる。

適当にうなっていたくせに。


「指、かじってるから。もう……」


 私は呆れるふりをしながら真央がかじった指先をじっと見つめる。

爪の先がじんじん熱くなるのがわかった。

一瞬だったけれど、やわらかな真央の唇の感触は生々しく残っている。

意識するほど鼓動は早くなり頬は熱く火照った。


 好き。


 気づいたときにはもう、私の心は真央でいっぱいだった。

笑うと目が糸のように細くなるところも、犬歯がやたら目立って吸血鬼みたいなところも、サラサラで真っすぐな黒い髪も、みんなみんな大好き。


 だけど、施設育ちで赤ちゃんのころから一緒に居るせいか、私は女として意識されたことがない。

幼なじみだからこそ、真央との間には決して縮まらない距離があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る