39 王都レイネール
「ふあぁあ.....おはよ」
腹から響く大きな欠伸を見せながら、サトウが正面から歩いてきた。今日は遂にやってきた
「んじゃ、行くか」
俺の言葉にサトウとミルが頷いた。
「おいミルシェ、どっから乗んだ?その列車とやらにはよ」
サトウが眠い目を擦りながら、ミルにそんなことを聞いた。
ミルはサトウに「ミルちゃんって呼んでいいよ」とは言っていたが、「どっちだっていいだろ」とかなんとか言ってミルシェと呼んでいる。確かに、俺にもあいつが「ちゃん」とつけて誰かを呼ぶイメージが湧きそうもない。
「ふふ、まあ待ってなよ!」
サトウの言葉に対して、ミルは何かを企んでいるように笑った。
グレイブに言われた魔列車に乗れる場所まで来ているはずなのだが、その場所は見る限りではただの大通りだ。
「慌てんなよ、サトウ」
「…あ、慌ててねーよ!てか、お前も乗ったことねえだろが!」
不思議そうに顔を歪めるサトウを茶化してみると、直ぐにそう言い返された。俺は当然何も知らないのだが、適当にそう言ってみただけだ。
そんなやり取りや雑談を交えつつ、数分ほど経った頃。
「─────この音は.....!」
背後から聞こえたのは、俺、そしてサトウにとっても耳馴染みのある音だった。
それは空気を劈くような大きな汽笛。
俺は背後を振り返った。
(ん......?)
しかし俺の視界に映ったのは、何の変哲もない大通りだけ。そう思った直後、大通りのずっと奥の方に、大きな影がかかった。
「おいおい、まさか....!」
驚く気持ちと、はしゃぎたくなる期待感があった。
大通りの向こう側から、
「うおおおおおっ!!」
サトウが興奮を抑えきれず大きな声を上げた。
大通りの上空から響く列車の音。魔列車は文字通り、空を走っていたのだ。
「すげえ、どうなってんだ.....?」
目を凝らしてみると、列車の下には薄っすらと半透明の線路が現れていた。よくわからないが魔列車は魔法の線路の上を走っているらしい。
そして、列車は煙を上げ俺達のいる真上付近で停車した。
「......魔法なのか蒸気機関なのかよくわかんないな」
「じょうききかん?」
「こっちの話だ」
ミルの疑問を適当に流し上を見ていると、列車の側面から何かが伸びて来るのが見えた。半透明の、線路と同じ様なものが伸びていき、やがてそれは階段へと変わった。
「おお...!こっから乗んのかよ!」
サトウは恐る恐る半透明の階段に足を乗せた。それに続いて俺とミルも階段を登る。ガラスを更に透明にしたような階段は、まるで空中を登っているかの様な感覚にさせてくれた。
「はは!ホントに浮いてるぜ」
そのまま車内へと進み、俺達は窓から街を見下ろした。
「こりゃあ壮観だな」
近いもので言えばモノレールだが、ここはモノレールのある都会とは違う。空から見下ろすのが古風な町並みだと、なんとも不思議な気分になってくる。
そうしているうちに列車は発車し、俺達はバレオテの風を浴びながら王都レイネールへと向かっていった。
「ふぁ....あぁん?」
「起きろサトウ。もう着くぞ」
心地よい揺れと風にすやすやと眠っていたサトウを叩き落とす。
窓の外の景色は一風変わって、バレオテよりも広く大きな町並みが広がっていた。魔列車に乗って数時間ほど経ち、俺達は
「チケットを」
「はい」
事前に買っていた乗車券を車掌に渡し、魔列車から出ていった。バレオテで乗った時と同じく、出口から伸びる半透明の階段を降りていく。
「っしゃあっ!!着いたぜ王都レイネール!」
「よっしゃあっ!」
「.....おい、はしゃぎすぎんなよ」
俺の返事に「はいはーい」とだけ言って二人は街へと駆けていった。
編入の説明を受けるために学校内に足を踏みいれるまで少し時間があるので、俺達はしばらく街を探索しようという話をした。しかしあの二人の様子だと、はしゃぎすぎて時間を忘れるという事態になりかねない。俺が時間の管理をしなければならないと気を引き締め、二人の後を追うのだった。
「ったく、どこ行きやがったんだ」
人混みをかき分けながら通りを歩いていると、何やらざわざわと人が集まって騒いでいるようだった。
(なんだ...?なんか騒がしいな)
まさかあの二人が、と考えてそれが高確率で起こってそうなことに頭を抱えたくなる。そのまま騒動の中心へと歩いていると、誰かに呼びかけられた。
「ン....!」
「.....ん?」
「ギン!」
人混みの中から出てきたのはミルだった。
「おい、はぐれるとこだっ.......どうした?」
見知らぬ街ではぐれそうになったと伝えようとした俺は、ミルの様子がおかしいことに気づく。
「ギン!この前の.....!」
上手く伝えられない様子で、ミルが何かを話す。
わかりそうもないので、俺はすぐに人混みを割って騒動の中心に顔を出した。
「..........!?」
俺は思わず、口をあんぐりと開けてしまった。
眼の前の光景があまりにも予想外のものだったからだ。
「あいつ.........!まさか....ニーヴァ...?!」
そこにいたのは、この前俺がなんとか倒した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます