36 支部長室
いつもどおりのギルドの中。何処かへと消えていったニーヴァを見送って、俺達は長髪の奇妙な男ヴェスを連れて帰ってきた。ちょうど今、今日あった一連のことを報告し、受けた依頼のことについても話してきたところだった。
「やっぱり.....ヴェスの偽装だったか」
やはりと言うべきか、俺達の受けた依頼はヴェスの偽装だったことが分かった。
「まあ、そうだよな。.....こんなに集めてきたのに」
「うーん。そんなに大量ってほどでもないし、頑張って食べますか!」
「..........だな」
これから数日間はイソのみだらけの食事を摂ることになるのだろうか。
「ヴェスの件はどうなったんだろうな」
「あ、ギン君。ちょうどよかった」
俺の言葉に、ちょうど受付から顔を出していたラケーレが反応する。
「支部長が、『30分後に二人で支部長室まで来てほしい』だって」
「.....込み入った話ってことか。まあ、死人が出るところだったしな」
感覚が多少麻痺していたが、現実世界なら完全に事件だ。色々と話すことがあるのは当然というべきか。
「わかった」
「うん、じゃあよろしくね」
俺が了解したと伝えると、ラケーレはいつもの事務作業に戻っていった。
面倒くさいことにならないと良いと思いつつ、俺はミルシェと時間まで待った。
そして30分経つ頃。
俺とミルシェは、比較的大きな高級感のある両扉と向き合っていた。
「入るぞ」
小さな声で合図を出し、俺はゆっくりと扉を開いた。いままでフランクに話してきた支部長のグレイブだが、ちゃんと話をするのは初めてだ。若干の緊張を感じつつ、俺とミルは部屋の中へと入っていった。
「やあ、数日ぶりかな?ギン君」
「グレイブ......だなんて、こんな雰囲気だと呼びづらいな」
高級そうな椅子に座り、部屋の奥でどっしりと構えるグレイブは正に支部長の貫禄だ。多少慣れたとはいえ気楽に話せる雰囲気ではなかった。
「全然いつも通り接してくれて構わないよ。支部長だなんて言っても、歳も大して変わらないだろうし」
「......そうか」
「ミルシェ、君もね」
「うん!」
ミルは慣れているのか、いつものテンションで返事をした。俺とミルはグレイブの対面の椅子に腰を下ろす。実際のところ何歳なのだろうかと疑問を思っている所で、グレイブが本題を切り出した。
「早速話に入ろうか。君たちに2つ、話したいことがある」
そう言って、グレイブは指を二本立てた。
「まず、ヴェスに襲われたという件についてだ。これはこちらで君たちの報告が正しいということを確認できたから安心してほしい」
グレイブはヴェスの罪が確定したと、そう言った。ヴェスがそう簡単に罪を認めるとは思えないが、嘘を暴く魔法でもあるのだろうか。
「それに、ヴェスには前科がある」
グレイブが真剣な面持ちでそう付け加えた。あの性格ではと一人納得していると、俺はグレイブと目があった。
「ギン君は知らないのかい?」
「.....あ、そういえば話してなかった」
はっとした顔でそう言ったのはミルだった。ヴェスの前科は、ミルに関係しているということなのだろうか。そういえば、
「じゃあ僕から説明しようか、嫌だったらミルシェは出ていても良いよ」
「私は大丈夫だよ」
ミルの言葉を聞き、グレイブが俺の方へ向き直って話を始めた。
「ヴェスは以前にも一度、ギルドから処罰を受けているんだ。その内容が、ミルシェに対する悪行だ」
「....今回は二度目ってことか?」
俺の言葉に、グレイブは頷ききれない様子だった。
「いや、罰すのが二度目というだけなんだ」
「それって.....」
「想像の通りだよ」
ギルドが正式に処罰を下したのが二度目というだけで、実際は何度もこういうことをしてきたと言うことなのだろうか。
「......事の発端から話すけど、それはミルがバレオテに来たときからなんだ」
グレイブは淡々と話を続ける。
「ヴェスはミルシェがバレオテに来たときに、どうやってか『移籍した理由』を知ったらしく、ミルシェの悪い噂を広めたんだ」
「.........!」
「『仲間を傷つける魔法使い』なんて風にね」
想像よりも胸糞の悪い話に、俺は不快感に顔を歪める。
「ギルドはそんなヴェスに忠告したが、ヴェスは全く変わらないどころか、直接的に危害を加えだす始末だった。だから、『位の降格』という処罰を下した」
「.........それからは、大人しくなったと思ったんだけどね」
ミルは俯いたままそう付け加えた。
「粛々と復讐の時を伺っていたなんてね」
「そうか。降格を食らった逆恨みで襲ったってことか.....」
「だろうね」
思わず拳に力が入ってくる。
「じゃあ、今回のでヴェスの野郎には相当でかい罰が下されるんだろうな?」
「......」
ミルの顔には少し不安の色が見えた。一度処罰を受けた相手に報復を受けたのだ。処罰を受けることが確定しても心穏やかではないのだろう。
「安心していいよ。この件は国に一任したんだ」
「!」
「ヴェスは公に処罰されることになる。最低でも数年以上の投獄は免れないだろうね」
グレイブが柔らかな笑みを浮かべた。
「よかった....」
ミルもまた、安堵からかその顔には笑みが零れていた。
「......当分は安心だな」
「そうだね。早速で申し訳ないんだけど、2つ目の話をしようか」
俺は少し居住まいを正す。グレイブが、まだ大きな話が残っているという表情だったからだ。
「君をギルドにスカウトしたときみたいに、単刀直入に言うね」
その言葉から、やはり重要な話なのだと確信する。
「『ノクタリア』に興味はないかい?」
「ノクタリア....?」
聞き覚えのない単語に俺は首を傾げる。
「ギン君は知らないんだね。『ノクタリア』ってのは魔法の学校のことさ。
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