32 強打
「おいおい、まだ絶望してくれるなよぉ....これからだぜ?俺の復讐はよ」
ギンの身が危ういと知った私の表情を見て、目の前の男はそう言ってくる。長い黒髪の、気味の悪い男。私はこの男のことをよく知っていた。名前はヴェス 。コイツとは一筋縄ではいかない因縁があった。
「さあ、始めようか」
ヴェスの表情から笑みが消えた。そして腰から一本の短剣が取り出される。
「.......!」
私の頬に、ギンへの心配とは別の冷や汗が垂れる。因縁があるとはいえ一度たりとも戦ったことはなく何の情報もない相手なのだ。それとは逆に、私の手札はだいたい知られている。
「ハッハー!」
距離を取って警戒している私の懐へと、ヴェスが迫ってくる。私は短剣での一撃をバックステップで躱し、再び距離を取った。
「いいねいいねぇ....ゆっくりやろうかぁ」
対するヴェスは余裕の雰囲気でそう言う。そこから読み取れるのは、隠し持っている強力な手札。ヴェスは
(でも......時間は無い!)
悠長に探っている暇はない。ギンが危機に瀕していることはほぼ確実なのだ。できるだけ早くヴェスを倒して、助けに行かなければいけない。
「なんだぁ?その顔は」
「ヴェス、お前との用はさっさと済ませるよ」
「........少し、わからせる必要があるなぁ」
覚悟を決めた私に対し、ヴェスは不快そうな顔をする。そして早足で、こちらへと歩みを進めてくる。
「ミルシェぇ!!」
「
恐ろしい剣幕で近づくヴェスを払いのけるように、私は
「.........
ヴェスの低く唸る様な声が響いた。
──────────────────────────────────────
だが、どれだけギリギリで引き付けても、全力で力を込めて押し出しても、結果は変わらなかった。結局、
(くっ.....だがまだ終わっちゃいない)
俺はまだ、最後の手段を残していた。ここまでそれをしなかったのには理由がある。「最後」とつくのだから、これをすれば終わり。本当に一度きりなのだ。
その作戦とはズバリ、全力の
(俺の全魔力を込めて、強烈な一撃を食らわせる......!)
ただ俺はキャラクターを作成するときに、ステータスをMP0からスタートしている。経験を経て魔力が伸びているのは間違いないが、威力に不安はある。そして当然魔力を全て使い果たせば直ぐに力尽きる。因みにこれは一度実証済みだ。
具体的には魔力が空になった瞬間、熱中症になったときみたいに目眩や頭痛なんかが押し寄せてくる。そのまま数分も経たないうちに動けなくなり、数十分はそのままだ。
「ひりつくな...」
次の一撃に全てを賭ける。
落とせなければ、ゲームオーバー。俺は跳ね上がる鼓動を感じていた。
「ふぅ........」
心を落ち着かせ、集中する。
覚悟を決め俺は
「飛び上がり!一発目で────いいや、関係ない。もう覚悟は決まってる!」
何度もやった通り、俺は飛んでくるゴーレムの方向へ走り出し下をくぐり抜けて攻撃を回避する。
(───完璧!隙だらけだ!)
崖際で硬直する、
駆け出し、勢いをつける。俺の全てを体から絞り出してぶつける──────。
「
体から掌へと、体中のエネルギーが突き抜けた。
全身全霊の一撃は確実に決まった。
確かな手応え。しかし、
「.....く...!」
落ちない。
(あと一歩.....足りない...!)
だが、まだ俺も倒れちゃいない。頭を過る絶望を一瞬で払拭し、足を動かす。
「うおおおっ!落ちろおおっ......!!!!」
最後の力を捻り出し、俺は
その体当たりは体勢が不安定だった
「おおお........っ」
足が上手く力が入らなくなってくる。ずるりと、俺はもたれ掛かるゴーレムから擦り落ちる。そしてそれと同時に、
「....!」
見上げるほど大きな苔むした岩の巨人は、少しずつ溝の方へと倒れていく。
同時に、俺も同じように体を倒す。遂に足を動かす力すら無くなってしまった。
「く.....もう動けねえ.......」
最後に、
俺は安堵の笑みを浮かべ、ゆっこりと瞼を閉じた。
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