日常回 街に新しくできた服屋 後編
遂に、各々が選んだコーディネートが発表される。
順番はとりあえず一番左側に立つバスコーから、ヘリナ、グレイブ、男爵、レナ、ギン、ミルシェ、ということになった。
「がはは、俺からだな!」
「あそこに試着室があるみたいですよ」
「おう、着替えてくるぜ」
どうやら試着OKのようだ。レナに言われ、バスコーは試着室へと入っていった。
そしてしばらくして、試着室の中から豪快な声が発せられる。
「コイツが俺の選んだ服だぜ!」
勢いよく試着室のカーテンが開かれた。
『おおーっ!!』
全身真っ黒。しかし、放たれる鈍い光がダンディな渋みを醸し出している。
つばの長いハットに、上品な革のロングコート。バスコーが着るのは、西部劇に出てくるガンマンが着ているような服だったのだ。
「どうだ!なかなかイカすだろ?」
「かっくいー!」
バスコーのその、冒険者の代名詞のような外見と見事に調和している。心做しかいつもより落ち着きがあるようにさえ感じさせられた。
「じゃあ、次は私」
ヘリナも同じように、着替えるために試着室へと入った。
「いくよー?じゃーんっ」
現れたヘリナの来ていたものは、俺ですら予想外のものだった。
「…ヘリナ、何それ?」
グレイブが困惑の声を漏らす。
「んー?ふさふさで可愛いでしょ」
その通り、全身が水色のふさふさ。そして頭には可愛らしい怪獣を模したフード。バスコーとは対極に近いそれは、着ぐるみ風の寝巻きだった。
「ちょっと動きにくいけど、ふさふさのおかげで暖かいよー」
「……その頭のやつはなんなんですか?」
「うーん…形は龍に似ているような似ていないような」
レナやグレイブの間で頭の部分の考察が始まっている。映画で見るような怪獣を可愛くデフォルメしているようだった。
ミルシェの選んだ俺の服について気になってるうちに、グレイブ、レナ、男爵と、3人の披露が終わった。3人はそれぞれ軍服、シティポップ、タキシードというチョイスだった。皆なかなか似合っていて、特に男爵の格好は「いかにも」という感じだった。
「次は私の番だね、ギン」
次はミルの番だ。ミルが俺の服を選んだように、俺もミルに服を選んだ。
「これだ。絶対似合うと思うぞ」
「お!じゃあ着替えてくるね」
選んだ服の入ったカゴを手渡すと、ミルはそそくさと試着室へ入っていった。俺が似合うと言ったのは本当だ。ただ悪戯な感情がないといえば嘘になる。俺は今回、知られていない現代の服という要素を存分に利用させてもらった。
「ミルシェの服はギンが選んだのか?」
「ああ、逆に俺の服はミルが選んでる」
「おお、そうなのか!ちなみにどんなのを選んだんだ?」
「見てな、可愛らしい服だぜ」
バスコーとそんな話をしていると、試着室のカーテンが開かれた。
「どうだー!」
元気に飛び出したミルへと歓声が上がった。
「か、かわいいー!」
「フン、悪くないじゃないか」
ヘリナや、男爵までもが声を上げている。確かに可愛らしい。黄色い帽子に、大きな白い襟のついた空色のチュニック。何も知らない人が見ればただの可愛らしい服だろう。
「くく、似合ってるよ」
「やったぁー!」
俺が選んだのは、園児の着る制服だったのだ。恐らく高校〜大学生位の年齢だと思われるミルシェが着たら面白いと思ったのだが、それ以上に可愛らしくて反応に困る。
「じゃあギン、これ!」
そして遂に、次は俺の番だ。
「....なんだこれ」
「いいからいいから、ほら着替えてきて!」
服の入ったカゴを渡され、ミルに押されるまま俺は試着室へと入っていった。
「.....何選んだんだー?」
カゴの中の、一見すると真っ白な服を取り出す。
「は────?」
広げてみて露わになったその服を見て、俺は愕然とした。
「なんで....これが.....?」
疑問の声を漏らし、俺はその場でただ立ち尽くした。今一度、そのTシャツを間近で見る。
真っ白な生地に細い線が波打ち、凹凸とした模様になっている。そして胸の部分には
確認するように、俺は服をひっくり返し背中を表にした。
「BUMPYS」
その文字を見て思わず力を入れた指から、くしゃりと服にシワが寄った。
「おいギン、どうした?」
「!」
バスコーの声に俺ははっとする。長い事なんの音も立てず試着室に留まっていたので、流石に疑問に思ったのだろう。俺はとりあえずそれに着替えることにした。
「おっ、似合ってるじゃん」
「シンプルだけど、悪くないですね」
試着室から出た俺へ皆の視線が集まり、各々が短く感想を伝えてくる。そんな、和気あいあいとした雰囲気とは対照的に、俺は困惑の表情を隠せなかった。
「なあ、ミル。なんでこの服を選んだんだ?」
そう、聞かずにはいられなかった。
「え?似合うと思っただけだよ。髪の色とも合うからね」
「.......───確かに、そうかもな」
ミルシェの何気ない言葉に、俺は表情を緩ませる。
所属していたチームのユニフォームが似合うと言われて、嬉しくないわけがない。
「カオス社....やってくれるじゃねえか」
聞こえないくらいの声量で呟き、そうニヤリと笑った。ミルシェの選んだ服は俺達の所属していたチーム「BUMPYS」のユニフォームだったのだ。
そして俺はここが課金コスチュームの並ぶ店だと仮定した。とすると、どうだ?
「BUMPYS」のユニフォームが課金コスチュームとして販売されたことになる。優勝記念に作られたということだろう。こんな状況で明かされるのは複雑な気分だが、嬉しいものだ。
「これで皆発表したね!」
余韻に浸っていた俺は、ミルシェの進行に意識を向ける。
「優勝を決めましょう!」
「どうやって決めるんですか?」
「私がせーのって言ったら、一番良かった人に指さしてね」
「おう、わかったぜ」
わかったと、皆が頷く。
「いくよー?せーのっ!」
『!』
円を描くように広がった皆が、それぞれいろいろな方向に指を指した。
「.....だいぶ分かれたね。えーっと、バスコー1票、ヘリナ2票、僕が1票、ギン君1票、ミルちゃんが2票かな」
「私とミルシェちゃんが同数でトップだ」
「おおー!じゃあ、決選投票をします!」
票は相当バラけたがミル(ギンが選んだ)とヘリナの2票が最大で、決選投票が行われることになった。投票先のミルとヘリナが、わかりやすいように前へと出ていく。
「皆決まった?」
ミルの問いに皆が肯定をする。ミルはそれを確認し、再び合図を出した。
「せーの!」
びしりと、前へ出た二人の方へ指が突き出される。
「──────ヘリナ.....2票。ミルシェ.....3票!」
「え......?」
「あーっ!負けたぁ悔しいー!」
「ミルちゃんの勝ちだね」
結果はミルが一票だけ多かった。
僅差だが、ミルの優勝だ。ということは、それを選んだ俺も優勝ということなのか。
「や、やった!!!ギンの選んだやつが優勝したよ!!」
「おめでとうな!ミルちゃんも、ギンも!」
ミルとバスコーが、嬉しそうな声を上げた。ちょっとしたいたずらごころで決めた服だったので、少しむず痒い気持ちだ。花が咲いたような笑顔を見せるミルに、俺は苦笑いを浮かべた。
「ふふ、なかなか楽しかったですね、男爵」
「フン.....もう儂は帰るぞ」
「男爵もしっかりとミルちゃんに入れてましたもんね」
「うるさい!」
相変わらずの態度を見せる男爵に、周りは面白そうに笑った。そんなこんなで、突如開催されたファッションコンテストは終了を迎えた。そして俺達が試着した服は全て、裏で画策していたレナの計らいにより、男爵のポケットマネーから出されることになったのだった。レナには本当に顔が上がらない。
それと、ユニフォームとは別で普段遣いの服が欲しかったので、その後他の服屋へと行ったのはまた別の話だ。
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