20 仲間
壮絶な戦いが明けた。俺達はふらふらと、疲労の溜まった足取りでバレオテのギルドまで戻ってきた。
「よぉ、初クエストから帰ってきたぞ」
「────ギン君とミルちゃん.....って大丈夫?!」
受付で作業をしていたラケーレに話しかけると、俺とミルシェの姿に驚きの声を上げた。俺達は二人共、ひどい格好だった。俺は全身黒焦げになり衣服はボロボロ。それに悪臭が染み付いている。ミルシェは目立つ怪我が多く、泣いていたので目を腫らしている。
そんな二人の姿を見たのだから、ラケーレがひっくり返りそうになっていたのも仕方がない。
「あはは、ラケーレ。ちょっと色々あったんだ....!」
ミルシェの無邪気な振る舞いに、ラケーレがひとまず大事ではないと一息つく。
「説明は後で聞くから、とりあえずその怪我を直しに行ってきて....!」
「そうしてくれ、俺に大した怪我はないから、とりあえずシャワーでも浴びてくる」
サイクロプスの渾身の一撃を腕に受けたが、少し青くなっているだけで幸い骨は折れていないようだ。ひとまずミルシェの怪我を優先してもらって、俺は後で軽く見てもらおうと決めた。
「うん...!...はぁ、とりあえず二人が無事で良かったよ」
そうして、ミルシェはギルドの裏の方へ入っていった。多分回復魔法かなんかで治療してもらえることだろう。俺は自室に戻り、シャワーで汚れを落とすことにした。
「.....あーあ、全身真っ黒だなこりゃ」
服を脱いで改めてみると、もはやそれが服だと認識できない有り様だ。支給品としてもらったカバンも勿論、黒く焦げた穴があちこちに空いている。
「ズボンはギリギリ履けるな.....しばらくは上半身裸で過ごすしか無いか」
まあ上半身裸でも、逆に冒険者らしいかもしれない。
一旦、シャワーを浴びに浴室に入った。
「ひとまず、一件落着か」
白く清潔な浴室で体に染み付いた汚れを落とす。そうして考えに耽っていると、思わず安堵に笑みがこぼれる。いや、安堵だけのものじゃない。仲間との絆が深まったこと。今日の出来事は、表面上では測れない深い意味のあるものだった。
「くく....楽しくなってきたな」
心のわだかまりも無くなって、やっと自由な冒険が始まったのだ。
浴室から出て体を拭き、上半身以外の服を再び着直す。俺はミルシェの様子を見に下の階へと降りていった。
「お、ギン君」
「ラケーレ、ミルシェはどうなった?」
「すっかり回復したみたい、でもすっかり疲れて部屋で眠ってるよ」
どうやら回復魔法を受けると眠気が来ることがあるらしい。
「じゃあ、俺が今日のことを説明する」
「うん。聞かせてくれるかな」
俺はラケーレに、今日あったことについてざっくりと説明を始めた。
巨大なヘドロスライムのあまりの臭さにミルシェが失神したこと。それをなんとか倒したが全身がヘドロまみれになったこと。そして、急に現れた
「.....
それまで穏やかな反応だったラケーレが、少しその声を荒げた。
「ああ。ミルシェの怪我もそいつにやられた」
「それで.....逃げれたの?」
「倒した。ミルシェの魔法でな」
「!」
ラケーレが声を詰まらせた。今
「ミルシェの魔法が派手に暴発してな」
「.....ええっ?!」
「当然俺も巻き添えを食らったんだが.....」
「う、うん」
「なんというか、俺には大して効かなかったみたいだ」
「............」
はははと笑う俺に、ラケーレは絶句した。確かに今の話を聞いただけじゃどういうことか理解できないかもしれない。文字通り、俺には大して効かなかったのだが。
困惑するラケーレに詳しく事情を話すと、一応納得してくれたようだ。
「まーそういうわけだ。今回のことで、あいつの魔法なら耐えられることがわかった。これからは縛りなしだ」
「.....そう、それはよかった」
にやりと白い歯を見せると、ラケーレは困惑しながらも安心したように微笑んだ。
「ところで、依頼達成には証としてとある部位を納品してもらわなくちゃいけないんだけど.....」
「ん....?」
「あ......もしかして取ってきてない?ヘドロスライムなら核が必要なの」
「............もしかして、依頼失敗か?」
ラケーレが片手で頭を抱える。どうやら討伐依頼の達成には特定の部位を持って帰らないといけないようだ。ミルシェが一緒なら大丈夫だと思ったらしいのだが、生憎あいつは終始気絶していてそんな余裕はなかった。
結果的に、信頼のあるミルシェが同行していたということで例外的に依頼は達成ということになった。
あんな思いをして失敗だと言われたらどうしようかと思ったので、ラケーレとミルシェには感謝だ。
「────と、言うことで一応依頼は達成らしい」
「そっかぁ.......よかったぁ!」
起きてきたミルシェが俺の部屋を訪ねてきたので、ロビーまで来て話をしている。ラケーレとした話を伝えると、ミルシェはホッとして机に体を伸ばした。
「....ミルシェ、そういえば臭くないのか?」
「あれ───確かに......全然臭くない!」
俺と同じ席に座っているミルシェが何食わぬ顔をしていることに疑問を感じた。俺は一週間は臭いはずだ。鼻の良いミルシェが気にならないはずがない。
俺の言葉にミルシェが近づいて、すんすんと匂いを嗅いでいるがなぜか臭くないようだ。
「....もしかして、あの大爆発のせいか?」
「うーん?」
トイレのニオイもマッチの火で消臭できると言うし、ミルシェの魔法で俺の匂いは吹き飛んだのかもしれない。
「ていうかギン!なんであのときは『ミル』って呼んでくれたのにまた戻ってるのー?」
ジトリとした目でミルシェがそういった。確かあのときは信頼してほしかったのでそう呼んだはずだ。
「ねー!ミルちゃんって呼んでっ!」
「.......」
すると、更に付け加えて「ちゃん」まで要求しだした。多分、ラケーレもそうだし古くからの知り合いは「ミルちゃん」なんだろうな。呼び方なんて気にしないが、短いほうが良いと思い、俺はそれを口に出した。
「........ミル、これでいいか?」
俺がそう呼ぶとミルは一瞬唖然として、はにかむように笑った。
「うん!ありがとね!ギン!」
そしてがばっと飛びつくように俺にハグをしてきた。今この瞬間、俺達は真に仲間となったような気がした。
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