13 ギルド
俺は今、グレイブと共に冒険者ギルドへ向かっている。
フィオレやレナたちとは、闘技場から出て別れてきた所だ。
「ギン、改めてよろしく。支部長という立場だが、グレイブでいい」
「....わかった。よろしくな」
グレイブと握手を交わす。支部長にこんな話し方でいいのかと心のなかで少し複雑な気持ちになるが、闘技場の医務室で言っていたようにこれくらいフランクな方が良いようだ。闘技場から出て10数分歩くと、冒険者風の戦士をちらほら見かけるようになってきた。
もう冒険者ギルドが近いのだろうか。さらにすこし歩いたところで、グレイブが口を開いた。
「あれが冒険者ギルドさ」
「へー、結構でかいんだな」
道を曲がって少し広い通りに出ると、その先に大きな建物が見えた。西洋風の屋敷を、少し無骨にしたような。学校くらいの大きな建物だ。グレイブの話によると、冒険者たちはここの寮で暮らしているようなので広く作られているのだろう。
「おーグレイブ!」
ギルドから出てくる冒険者がグレイブに手を振った。その様子からグレイブの信頼度がうかがえて、少し表情が緩む。
「信頼されてるんだな」
俺の言葉に、グレイブは嬉しそうな表情を見せた。
石階段を数段上り、ギルドの中へと入っていく。扉のない入り口をくぐるとそこは、酒場風のロビーだった。いくつもの丸机と椅子が並び、奥には受付嬢の構えるカウンターがあった。
想像通り、異世界のギルドだ。
「ミルシェ、今暇かい?」
グレイブが、椅子に座ってくつろいでる.....猫の獣人の女の子に声をかけた。
オレンジ色の短い髪に、ぴょこんと二つの猫耳がついている。
「んー?....私は今忙しいんですけどー」
「いや、どう見てもくつろいでるだけだよね....」
机にだらんと体を伸ばすミルシェに、グレイブが呆れた顔をする。
すると、ミルシェが隣の俺に気づく。
「あれ、もしかして新人君かな?ははーん、グレイブ君、そういうことだね?」
「.....そう、君にここの寮を─────」
「ついに私の部下ができるってことだ!」
「んなわけあるか.....!」
常に穏やかなグレイブが、苛立ちを露わにしている。
俺もツッコミを入れざるを得なかった。
「.....君に、寮の案内をしてほしいんだ」
「ええー、案内ー?」
めんどくさそうにするミルシェにグレイブが近寄り、ヒソヒソと耳打ちをする。
「─────!」
何かを二人で話した後、ピンと猫耳を立ててミルシェが立ち上がった。
「新人君!案内はこの私に任せるんだ!」
立ってみると、175cmくらいの銀よりやや小柄だ。
雰囲気も相まって全く頼りがいがなく、俺は不安げな顔をした。
「じゃあ、頼んだよ。僕は色々やらないといけないことがあるから、ここで。自分の部屋が決まったら冒険者証と一緒に受付で登録してもらってね」
「.........不安だなぁ」
俺の言葉に、ミルシェはむすっとした顔をする。
「んー?私はこれでも中級冒険者なんだぞ!」
冒険者証を取り出し見せびらかす。
中級がどのくらいかわからないが、グレイブの表情から、意外とすごいのかもしれない。ミルシェがやる気になったのを見てグレイブが「じゃあ」と言って立ち去るので、俺は仕方なくミルシェに案内してもらうことにした。
「あーわかった、お前に頼むよ......で、寮はどこ?」
「こっちだよー」
ミルシェがどたどたと、先へ進んでいく。
それに着いていこうと歩き出した時、俺は近くから視線を感じた。振り向くと長い黒髪の、気味の悪い男がこちらを睨みつけていた。
「.......?」
「ケッ...」
顔を見るなり席から立ち去ったので、俺は不思議がりながらもミルシェの方へと歩き出した。
ロビー右側にある階段を上る。さらにギルドの右側に向かって歩いていくと、闘技場で見た扉の並ぶ通路があった。ここの寮もまた、同じような作りになっているらしい。
「ほら。使われてる部屋には名前が書いてあるんだ」
「へー、確かになんか書いてあるな」
よく見ると扉の看板には番号とともに名前が書かれている。
二人で空き部屋を探しながら歩いていると、途中に一つだけ何も書かれていない看板を見つける。
「あ!あったぞ、何も書いてないやつ」
「おおー!じゃあそこにしよう!」
16と書かれた部屋が空席だった。
早くも部屋が決まり、受付に登録するため2人はロビーに戻る。
「やあー、ラケーレ!」
ミルシェが俺の先を歩き、カウンターの受付嬢へと話しかけに行った。ミルシェより長い茶髪の、若い女性だ。
「どうしたの?ミルちゃん」
「新入りが寮に入りたいらしいんだよ」
「ああ、冒険者証ってやつも作ってもらえないか?」
「ギン君だよね。ギルドへようこそ。支部長から話は聞いているよ」
ミルシェの後ろからやって来る俺に、受付嬢のラケーレが笑顔を見せる。
カウンターの下から紙とペンをとりだし、俺の前に差し出した。
個人情報を記入する紙のようだ。
「書いたら渡しに来てね。部屋の番号も書くところがあるから」
「なるほど。じゃ、向こうで書いてくる」
ペンと紙を持って、俺は近くの椅子に座る。
「....で、お前は忙しいんじゃないのかよ」
ペンを持って書こうとしたとき、反対側の椅子にミルシェが座ってくる。
「えー.....案内したんだし、気になるから見せてよー」
確かに案内はされたが、寮はめちゃくちゃ近かったし....部屋も受付に聞けばわかったんじゃないか?
それにこいつ────もしかして......
「お前.....仲間は?」
「ぎくぅ....!」
「な........!」
グレイブ、あいつまさか....!
いや絶対にそうだ。.......実際、俺は右も左もわからなく、「中級冒険者」らしいミルシェがソロだったとしたらかなり都合がいい.....!
「てめぇグレイブになんて言われたぁ!」
「えぇー....なんにも言われてないよぉー......!」
目をキョロキョロしなが白々しい仕草をするミルシェに、俺は苦笑いを浮かべる。
「仲間ができるかも、とか.....言われたか?」
「え!い、いや...違うよ!」
「....んじゃ、まあ。見るだけにしろよ」
と、そのまま記入を始める俺にミルシェはがっくりと項垂れる。
「あ...あぁー....このまま私は一生ぼっちなんだ....」
「........」
「もう1年くらい、ずっと一人だよぉ......」
「........」
「このまま....死ぬときも一人なのかなぁ........」
「あ゙ぁ───っ!!やめろ!」
思わず、ペンをへし折りそうになる。
「あーもう、わかったよ!ミルシェ。お前の仲間になってやる!」
ミルシェがきょとんとした顔をする。
「───え?」
「仲間になるって言ってんだ」
「仲間って.......私と?」
「ああ、お前以外誰がいんだよ」
「私と......仲間に?」
「そうだ」
ぱあっと、ミルシェが咲いたような笑顔を見せた。
「本当っ!?やったぁー!!」
….まあ、これでよかったのかもしれない。
グレイブ。流石あの若さで支部長まで上り詰めた男だ。合理的なことしやがる。
「ねーねー、チーム名は何にするー?」
「....気がはえーよ!まだ冒険者証もできてないわ!」
「ふふん」
「あと、チームになるんなら新人君はやめろよ。俺はギンだ」
「うん!じゃあ私のこともミルって呼んでよ!」
「..........気が向いたらな」
こうして、ギンとミルシェはチームを組むことになった。
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