俺はまさに、歩くダイヤモンドだ

かべ

1 原点。そして頂点

okonogi小此木!!」

ginギン君.....!......────」


『決まったァァッッッ!!【Red Rhino】のtabiタビ選手、okonogi小此木を撃破しました!!』

『ワアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!』


クライマックスの状況に、会場いっぱいの観客は大歓声を上げた。

大きな会場を熱気と歓声が包む。会場の奥には、入り口からでもはっきりと見える巨大な映像が映し出されている。


『3対1の状況!【Bumpys】はピンチの状況です!これは流石のginギンでも厳しいか───────?!』


VRの対戦ゲームとして今覇権を握る『カオスアリーナ』。

今丁度、国民中が熱狂する国内大会の決勝戦が行われていた。国内最大のドームに集まる満員の観客は、優に5万人を超えるだろう。

チーム【Red Rhino】対、チーム【Bumpys】。既に【Bumpys】は二人やられて、状況からすれば敗色濃厚。しかし、観客は圧倒的な【Red Rhino】に熱狂しながらも、──────を想像していた。言わずもがな、【Bumpys】の逆転の可能性だ。


そんな状況で残された【Bumpys】の一人、ginギンはこの状況を楽しむようににやりと笑った。


「おいおい、これはきついな」


入り組んだ地形の多い【工業地帯】ステージには珍しく、だだっ広い工場の中。

ginギンの前に3人のプレイヤーが立つ。


「そうだginギン、絶体絶命だぜ?」


軽口を叩くのはライオン姿の侍、satouサトウだ。

ヘラヘラしつつも、全く警戒の構えは崩していない。


satouサトウ、油断するなよ。行くぞ!考えさせるな!」

「あいよ!」


漆黒鎧の騎士、dorodoroどろどろの号令で、三人がこちらへ向かって来る。

そんな【Red Rhino】に対し、ginギンはここから勝つための算段を考え、その一手目を打った。


手榴弾グレだっ!」


satouサトウに向かって投擲された爆弾と思しきものに、dorodoroどろどろが警戒の声をあげた。


「【見切り──────!】」


咄嗟に防御スキルを発動するsatouサトウだが、しかし、なんの反応も示さない手榴弾それにその顔を歪めた。

ginギンがニヤリ、とその顔に悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「使ったな?」

「フェイクか!!───まずいっ!」


ginギンは爆弾を起爆せずに放ったのだ。

そして、反射的にsatouサトウはスキルを発動してしまった。

サトウのもとには、防御のスキルが無くなった。


ginギンは縄を畝らせ、起爆させなかった爆弾を回収しsatouサトウへと肉薄する。

ginギンのキャラ、海賊は曲剣カトラス拳銃リボルバー、そして自在に操ることができる縄を武器とするのだ。


「くそっ!!」


ginギンの振り下ろした剣をsatouサトウが刀で受けた。

ガキィィン、と剣同士がぶつかる音が響いた。勢いで押し込まれ、satouサトウの足元に二本の線が走る。

押されるsatouサトウへ、すぐさまチームメイトの2人が駆けつける。ginギンの攻めに対しすぐに対応しようとした【Red Rhino】だったが、ginギンもまた、既に次の手を打っていた。


「【波濤タイダルウェーブ】」


呟きとともに、ginギンの体の内側から紺碧のオーラが迸った。

そして、ginギンの周囲が、一瞬にしてへと変わった。ginギンULTアルティメットスキルだ。試合中、戦闘を通して貯めるULTゲージアルティメットスキルゲージが100%の時のみ使える奥の手。

ginギンを中心に周囲に波が広がり、それはsatouサトウへ援護をしようとするdorodoroどろどろtabiタビを押し止めた。


「ぐおおっ!【ビースト・モード】ッッ!」


援護が遅れるとわかったsatouサトウもまた、ULTアルティメットスキルを使用する。唸り声を上げ、その体は荒々しい獣そのものとなっていく。体毛は伸び、牙は長く、爪は鋭くなる。40秒間だけ身体能力を向上させるライオン侍の技の一つだ。


「オラァッ!!」


satouサトウの剣がginギンの剣を押し返す。さっきまでとは形勢が逆転し、その勢いでginギンが押し倒される。文字通り、ライオンに襲われ絶体絶命な人間の構図だ。

───しかしginギンはこれが狙い通りと言わんばかりに、にやりと口角を上げた。


「─────!」


ginギンの右手、黄金の拳銃リボルバーが輝いた。


それは【コインガン】。─────海賊は、拳銃リボルバーに2発だけ、高い吹き飛ばしノックバック性能のあるコインを装填できる。ゲームの仕様上、コインガンが装填されている時は拳銃リボルバーの色が黄金に輝く。強力な技なので、見てから対応できるように調整されているのだ。

だが、目まぐるしく体勢が変わり、satouサトウはコインガンに気づくのが少し遅れてしまった。

そして─────防御スキルは無い。フェイクの爆弾に釣られ使ってしまい、今はCTクールタイム中なのだ。必然的に、satouサトウは無防備の状態となった。


キィ───ン、とコインが地面に落ちるような音とともにそれが射出された。

角度は垂直。覆い被さるようにginギンを押し込んでいたsatouサトウは、下からのコインに直撃する。瞬間、satouサトウはまるで下から強力な爆発を受けたかのように吹っ飛んだ。


「ぐおおおっ!!」

tabiタビ!!!」

「了...解.....っス!!!!」


dorodoroどろどろの意図を理解したtabiタビは、すぐさま狙撃銃スナイパーライフルを構え、ginギンに狙いを定めた。今ginギンを止めなければ確実にsatouサトウがやられるのだ。

狙撃銃スナイパーライフルのトリガーに指がかかる。

狙いは頭。ginギンがとどめを刺そうと動くタイミング、その絶好の瞬間を狙う。


「────今!」

「【乗波サーフ】───」


弾が発射されるタイミング、ginギンの足元にが現れた。波濤タイダロウェーブで生じた海の上、まるでサーフィンをするかのように、ギンは戦場を自由自在に駆け回る。そして紙一重、放たれた銃弾は髪をかすめた。ginギンは勢いのまま、地面を流れる波とともにサトウへと肉薄する。


「【スラッシュ】!」


そして水流の斬撃が空中のsatouサトウを切り裂いた。


『ワアアアアアアアアッッッ──────────!!!!』


会場を、溢れんばかりの歓声が包み込んだ。

実況や解説もまた、その声には抑えきれない熱が籠もっていた。


『コインガンからの乗波斬サーフスラッシュッ!!身動きの取れないsatouサトウ選手を一刀両断だァ────ッ!!!!3対1の状況から一瞬の出来事!!援護させる暇も与えない!!!これはわからなくなってきたぞ────!!!』


【Red Rhino】たちの顔から余裕が消えた。静寂の中、時間とともに緊張感が高まっていく。

口火を切ったのは【Red Rhino】の二人だった。二人に、ginギンの方へと動き出す。


(固まって動くぞ)


dorodoroどろどろが小声でtabiタビに作戦を伝える。dorodoroどろどろは、手榴弾グレによって分断されることが一番の負け筋だと考えた。だから手榴弾グレの警戒を最優先に、ぴったり二人で動き分断を防ぐことにしたのだ。


「.......妙っスね」


satouサトウを倒してから、牽制すらせずに距離をとって後ろへ下がるginギンに、tabiタビが疑問の声を漏らす。


「大丈夫だ、冷静に手榴弾グレの分断だけ気をつけろ」


コクリ、とtabiタビが頷く。二人の脳裏にはさっきの分断が強く焼き付いていた。だから、手榴弾グレさえうまく避け、分断されないようにうまく立ち回れば勝てると確信していた。そして───


手榴弾グレだ────」


そんなdorodoroどろどろの呟き。

再び海賊のスキル、爆弾が投げられた。


「.....この位置だな」


にやりと、ginギンが不敵に笑った。

dorodoroどろどろの背筋に冷たいものが走る。


「なんだ....?おかしい、こんなバレバレの手榴弾グレで何を────────」


dorodoroどろどろは違和感を持ちつつも、tabiタビとともに後方へと回避する。

ginギンの爆弾は乾いた音を立て地面に転がった。パキリと、ひび割れた隙間の内側からまばゆい光が漏れ───激しい爆発音とともに小規模な爆発を起こした。

破片が四方八方に飛び交う。回避とともに爆風に乗った二人は、壁際まで吹き飛んだ。

塵や破片と共に、────二人の足が地面についた。



「───そこの地面、壁際は、okonogi!」

「?!」


ピピピピピピピと、機械的な音が地面から聞こえた。


「離れろ!!ta────────」


瞬間、出掛かった声がかき消され、またもや轟音が起こった。一瞬のうちに地面が隆起し、眩い光線とともに大爆発が起こった。撤去工事を思わせるような崩落が起こる。天井や壁が崩れ落ち、巻き起こった塵埃の中。─────緑色に発光する、幽霊を思わせる半透明の騎士が佇んでいた。

間一髪、dorodoroどろどろ幽馬騎士ファントムナイトスキル幽霊散歩ゴーストウォークを発動し、爆発を回避していたのだ。


「この爆発は......!......okonogi小此木ULTアルティメットスキル、か.........!」

「.....okonogi小此木の置き土産、ちゃんと見えてたぜ」


【Bumpys】のokonogi小此木は死ぬ直前、ちょうど溜まったULTアルティメットスキルをその場に設置しておいたのだ。それは不可視の地雷。敵が近づくと数秒後に爆発し、強烈な爆発とともに煙幕を張る。


『な、な、なにが起こっているんだぁ──────!?

爆発に次ぐ爆発!!この状況は──────!!?』


【Red Rhino】にとって恐れていたことが起こってしまった。


tabiタビ!!」

「やばいっス!煙で周りがっ.......!」


tabiタビは間一髪、爆発を回避していた。しかし───。【Red Rhino】が、再びされた。深い爆炎が一帯を包み、合流は困難。それに崩落の音がノイズとなって足音をかき消している。怯える小動物のように周りを警戒するtabiタビへ、魔の手が迫る。


「....!そこだっ!」


バババッ!と、機関銃を連射する。

崩落音の中だったが、確かに後ろで不自然に衣擦れのような音がしたのだ。


「............縄!!」


そこにあったのは海賊のスキルである縄だった。

自由自在の縄を操り、錯乱に使ったのだ。


「あー、やらかしたっスね........」


無慈悲にも、背後から拳銃リボルバーの銃弾がtabiタビの頭に直撃する。

tabiタビは塵となり、爆炎に巻かれて霧散していった。


『ワアアアアアアアアアアッッッッッ──────────!!!!』


再び、会場に歓声が巻き起こる。


『分断からの1対1…..!!これは.......人数不利がなくなってしまった【Red Rhino】!!!

や、やってしまうのかginギン──────────!!??』


間髪を入れずに、煙を貫く鋭い刺突が迫る。

それを軽い身のこなしで避けたginギンは、okonogi小此木と向き合うように構えをとった。


「......フン!ただ状況が対等になっただけだ。

いや、むしろこちらの方が有利だ────────!」

「【双子霊ツインソウル】!!」


dorodoroどろどろの体の輪郭がぶれる。

そして体の内側から緑色の、dorodoroどろどろと瓜二つの幽霊が飛び出した。

左右対称で並ぶginギンの前に佇む。


幽馬騎士ファントムナイトULTアルティメットスキルは単純明快にして強力な『分身』を出す。『分身』はdorodoroどろどろと左右対称の動きをする。自由には動かせないもののそれは単純に二倍の攻撃力になることを意味する。

もちろん制限はある。効果時間20秒、それが過ぎれば『分身』は消える。


(20秒で終わらせる!!!)


(20秒耐える!)


お互いに目的は理解している、この20秒間が正念場だ。


「【幽馬ホロウホース】...!」

「厄介だな...!幽馬騎士ファントムナイト!」


幽馬騎士ファントムナイトのスキル、【幽馬ホロウホース】は発動により騎乗可能な霊馬を呼び出す。

効果は馬を倒すまで続く。本来なら隙を見て馬を倒したいところだが、一度でも捕まるとULTアルティメットスキルの火力で押し切れるだろう。


「ひたすら逃げるしかないか。ただ..........早い......!」


ロープを駆使して工場内を駆け回るが、ちょっとでもミスったら捕まる距離まで迫っている。


「くっっ!」


間一髪、後ろから迫る2つの剣を紙一重で避ける。

しかし、このままではジリ貧だとginギンは理解していた。どうにかこの状況を打開しようと、ginギンは頭をフル回転で回す。


(......くそっ!このままじゃ追いつかれる.....!どうにかしてうまく逃げ────────いや、違う.......!!逃げれないならすべて避けるだけだ!)


ginギンは足を止め、再び向かい合う。


「どうした.....?!血迷ったか!」


足を止めたginギンに対しdorodoroどろどろは怒涛の攻撃を繰り出す。

しかし、すべての攻撃がぎりぎりで当たらない。


心でも読んでいるのかと、dorodoroどろどろは考えざるを得なかった。ginギンのその鋭い眼光と、眼の前の光景がどうしてもそう思わせた。


「いつまで躱し続けられる?!」


dorodoroどろどろは焦燥を隠せなかった。決勝戦の、3対1から仲間はやられて【Red Rhino】は自分ひとり。自分の手にすべてが懸かっている。そんな状況では、焦りこそが剣を鈍らせていることに気づけなかった。


「タイムリミットは迫ってるぜ......!」

「くっ....─────これが最後の賭けだ!」

「......!」


dorodoroどろどろが構えを取る。

そして踏み込み、前方を勢いよく薙ぎ払った。


(ただの薙ぎ払い........?)


前方からの薙ぎ払いを、ginギンは後方に飛躍することで回避する。

だが、そのバックジャンプを誘うことこそがdorodoroどろどろの狙いだったのだ。


「.......ぐっ?!」


ginギンが大きく体勢を崩した。右手の剣で薙ぎ払った後、dorodoroどろどろは左手の盾をginギンに向けて飛ばした。バックジャンプで薙ぎ払いを避けたginギンは、無防備の空中で盾に直撃したのだ。


「体勢を崩したな!!」


dorodoroどろどろ、そして鏡合わせの分身が勢いよく剣を振りかぶる。この無防備な状態ではdorodoroどろどろの攻撃を避けることができない。

──────そんな中、再び黄金の拳銃リボルバーが輝いた。


「無駄だ!!」


間髪入れずdorodoroどろどろ幽霊散歩ゴーストウォークが発動する。3秒間の幽霊化、あらゆる攻撃をすり抜ける。本来ならば自分の攻撃すら相手をすり抜けるので、攻めには使えない。しかし、ULTアルティメットスキルの【双子霊ツインソウル】を発動している間は、代わりに分身の攻撃が当たる。つまり、【コインガン】を避けつつ攻撃を叩き込める─────!


「終わりだ!!ginギン!!!」

「まだだ.......!!!」


ginギンが目を細め、白い歯を見せる。

【コインガン】最後の一発。


「ノックバックさせるのは─────だ!!」


キィ───ン......とコインの音が工場内に響き渡る。dorodoroどろどろの剣は寸前のところで届かない。ginギンは、コインのノックバックで遥か後方へと吹き飛んだ。

dorodoroどろどろ渾身の一撃は、ginギンの機転によって防がれてしまった。


がらがらと、吹き飛んだ先のがれきをかき分けて、ginギンが起き上がる。

そして遂に、経過する。


「.....20秒!!」


ginギンのカウント同時に、ULTアルティメットスキル双子霊ツインソウル】は煙に巻かれて雲散霧消した─────。


「くっ...!!!」


dorodoroどろどろが狼狽える。その隙を見てginギンdorodoroどろどろめがけて突進した。激しい攻防が始まり、剣のぶつかる音が鳴り響く。しかし────さっきとは打って変わり、攻守が逆転している。ginギンの怒涛の攻撃に対しdorodoroどろどろは防戦一方だ。


「おいおい、さっきから動きが鈍ってるぜ!?」

「.......そうだ、な」


ginギンの言葉にdorodoroどろどろが苦い顔をする。【双子霊ツインソウル】が切れてから、少しだけ頭の冷えたdorodoroどろどろは理解した。対等、いや自分有利だったはずの状況を変えたのは精神力の差だと。3対1から1対1に変わったとき、変わったのは人数差だけではなかった。


もう、メンタルという面で埋められない差が広がっていたのだ。


「俺達の勝ちだ.....!!!!」


ginギンの曲剣が、dorodoroどろどろを貫いた─────。

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