第36話

 俺の趣味に思わぬスポンサーが付き、都会で店を出せる。


 俺は異世界の品らしきガラクタをかき集めて修理し王都で売ればいいわけだ。


 その中で美容に効果のあるものならお嬢様が買ってくれるらしい。


 しかしそれは同時に、この秘密基地を引き払うことを意味する。


「……ううむ。しかし夢が開けたからこそ先立つものは必要だ。パワードスーツはまだまだ進化する余地がある」


『進化する余地とは?』


 この基地のメインコンピューターである、テラさんは俺の苦悩に満ちた呟きに律義に反応する。


 どうにもテラさん的には自分の文明のパワードスーツに改良の余地などないとでも言いたげだが、俺から言わせれば今後このまま現状維持など許容できるわけがなかった。


「パワーアップは大事なことだと思う。しかしそれには先立つものが必要だ、つまりマネー」


『同意します』


「別に王都に住まなくっても、何か月かに一回お嬢様の家に訪問販売にでも行けばいいんじゃないか? そうすれば一定の収入が見込めるかも……なんなら品物だけ修理して送ってもいい」


 常に進化を。ヒーローを名乗った以上更に高みを目指していきたいものだった。


 かなり本気で両立できないものかと頭をひねっていた俺にテラさんは事も無げに言った。


『そのような面倒なことをしなくてもいい案があります。うまくすれば、この基地も王都の店も一人で両立させることすら可能です』


「ほ、本当ですかテラ様。だとすれば神過ぎるんですが?」


 俺はまさかと目を見開き、とりあえず祈った。


『呼称は統一してください、エラーが出ますので』


「……変なとこメカだなテラさんは。それで? その神懸かった妙案を披露してくれよ」


 そんな魔法みたいな方法あるわけないよと思いながらも、そこは異世界のコンピューターだ。


 俺では考えもつかないすごい方法が出てくるんじゃないかと期待する。


 そしてテラさんの持ちだしてきた案は思った以上にSFだった。


『はい。転移ポータルを使用します。そして非常時に備え、パワードスーツも転移処理をしておくべきだと提案します』


「……テラさん? 今なんて言った?」


 俺はまず自分の耳を疑った。


 そんな鳥肌が立つほど素敵な提案があるわけない。


『何か、不明な点がありましたか?』


「大ありだとも! 転移ポータルに転移処理!? そこのところ詳しく! 詳細に教えてくださいお願いします!」


『もちろんです。まずはこの基地の図面をご確認ください』


 俺は言われるがままにパネルに表示された図面を確認した。


『まだ土砂に埋まっている区画に転移ポータルが存在します』


「て、転移ポータルが」


 俺は穴が開くほど案内図を凝視する。


 テラさんが点滅させている一室は、そう深くない位置に埋まっていそうだった。


『現在機能を停止していますが、性質上かなり丈夫な設計ですので高確率で使用可能かと思われます』


「オ……オオオ」 


 それを聞いた瞬間俺は震えた。


 イケナイイケナイ。ここで取り乱すのは素人だ。


 これでも最近はパワードスーツを着こなして、ブイブイ言わせてるお兄さんだ。今更転移装置くらいで狼狽えるものかよなどと自分をごまかして落ち着いてみた。


 できる限り平静を装ってみたが、顔は半笑いである。


「そ、そうかテラさん。で、では、まずは転移ポータルの説明を頼もう。っていうかひょっとしなくても長距離移動できる?」


『肯定します。いくつか制限がありますが」


「お……おお」


 テラさんがあまりにもあっさり肯定するので、変なうめき声を出してしまった。


 だがまだ喜びすぎてはいけない。ここからが本番なんだから。


 もし転移処理の説明が望み通りなら、絶叫からの気絶までありえそうだ。


 俺は震えが止まるのを待ってから、尋ねた。


「それで……転移処理とは?」


『はい。転移の応用です。マスターの使うパワードスーツにこの処理を施せば、簡単にいつでもパワードスーツを手元に転移させることが可能になります』


「ちなみに……こういうのはどうだろう?」


 俺はトップシークレットになりかねない重要情報をできる限りテラさんにだけ小声で伝えると、テラさんは断言した。


『可能です』


「うおおおお! イエス! よくそれを教えた! ちょっと穴掘ってくる!」


『落ち着いてくださいマスター。今はもう深夜です』


「0時になったらもう次の日だ! さぁ張り切っていくぞ!」


 テラさんに手足があったらすぐさま止められそうだったが、俺を止める者など誰もいない。


 まずは現物を確認しなければ始まらないと、俺のマイツルハシはロマンを実現すべく限界を超えた性能を発揮しようとしていた。

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