第34話

「……うむ。大変な事をしてしまったかな」


『そのようです』


 歯ブラシでごしごしと歯を磨きながら、ヘルメット状態のテラさんと昨日のトップニュースについて語り合う。


 オークの根城大炎上。


 町ではそんな噂が囁かれていた。


 ちなみに俺は火をつけたりはしていない。


 それをやったのは、噂の騎士団長。灼熱の騎士、シャリオ=メルトリンデ嬢であるともっぱらの噂である。


 名前は……うろ覚えだったが、灼熱と言えば頭に出てくる顔は一人だった。


 燃え上がる真っ赤なドリルヘアーのお嬢様は、行動も魔法同様苛烈そのものらしかった。


「あのお嬢様、すげぇことするよね……」


『蒸気王を仕留めたマスターが言う事ではないかと』


「そりゃそうだわな」


 なんにせよ。一つ戦いが終わった。


 マフラーでの戦闘は本番でも予想外に効果的だったし、魔力を吸収するという性質は俺の無駄魔力が初めて日の目を見た瞬間だった。


 今まではやけに遠く感じた、魔法も、科学も、未知の可能性も今ではグッと俺の身近にある気がする。


 さてここからどこまでやれるものかは今後の頑張り次第だった。


「ま、全部これからだ。スーツが動いた以上、これからの活動もどんどん考えて行こう」


『そうですね。そもそもヒーロー活動と言う物も随分漠然としたものですので』


「……そうね」


 身も蓋もない事を言うテラさんに俺は渋い顔で一応頷いておいた。




 コンコンと家のドアがノックされる。


 俺は慌ててテラさんメットを地下に放り込んで、扉に鍵をかけてから玄関に向かった。


 さて今日はいったい誰が来たのだろう?


 扉を開けると、そこには赤いドリルヘアーが揺れていた。


「ごきげんよう。よろしいかしら?」


「……はい。おはようございます、お嬢様。今日は何のご用でしょうか?」


 俺はヤバイ今すぐ扉を閉めたいと思いながらも、恭しく頭を下げる。


 よし、掴みはとりあえず紳士的にいってみるとしよう。


 俺が行動した結果、果たしてお嬢様はここに何しに現れたのか?


 俺は今日もまた異世界に試されていた。

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