第22話
「ほぅ……。こいつはすごいな、このゴミ山にこんなものがあったとは」
秘密基地に案内したシルナークの反応は思ったよりも楽しそうだった。
『マスター。この方は?』
「ああテラさん。こんな怪しい人物が入って来て警戒するのも無理はないが、ゲストだよ?」
「おいおい。怪しいとは心外だな。少しくらい耳を尖らせてから言ってほしいものだ」
「確かに俺の耳は尖っていないが。君だってあと一回り位筋肉をつけてから言ってほしいもんだね。テラさん、彼の名前はシルナーク。なんでか知らんけど、ドワーフの鉱山街で服屋をやってるエルフさんだ。変人と呼ばれている」
「ゴミ山で変人をやってる変人に言われたくないんだが?」
『なるほど。二人とも変人ということですね?』
なんだかテラさんからは一まとめにされてしまったが、二人とも自覚があるのでスルーした。
そしてシルナークは、さっそく本基地の目玉であるところの、パワードスーツに興味を持ったようだった。
「それでこいつが噂の白い鎧か。なるほど、変な鎧だ」
「変とは失礼だな君。異世界産なんだよ? 中々見れるもんじゃないんだからもっとありがたがりなさいよ」
それでなくともカッコイイと思うのだが、シルナークはパワードスーツをじっと観察し、次に俺を上から下までまんべんなく眺めて言った。
「それはそうだが、案外異世界から流れつく物というのは多いんだよ。ところでだ。この鎧、少しお前のサイズには大きくないか?」
しかし突然、俺はシルナークに思ってもみなかった部分を指摘されて驚いた。
さすが服屋だ、一目でそんなことまでわかるとは嬉しい誤算である。
「ああ、まぁ少しだけ。ボタン押したら体に密着するし、動けないこともなかったよ」
「ふむ。では、こいつをつけて動いてみて、体に裂傷の類はなかったか?」
更に指摘されて思い返すと、確かに筋肉痛の他にも、怪我があった気がした。
ドラゴンと戦ったから仕方ない、ちょっと色々ぶつけちゃったし、あたりの理由で納得していたのだが、指摘されると少し話は変わってきた。
「ああ、あった。少し痣にもなったかな?」
「ひょっとしてだがこの鎧、元は何か下に厚い衣装を身に着けてから着込むんじゃないか? そこのところどうなんだ?」
今度は俺とテラさんにまとめて質問が投げかけられる。
俺は答えを持っていなかったが、なんとテラさんはシルナークの言葉を認めた。
『はい。パワードスーツを着込む際、生存率を上げるために衝撃吸収用のインナーウェアを着用していました。しかしそれについては現状失われた状態です』
「資料か何かはないのか?」
『あります。ライブラリーをご参照ください』
ピッと大型のディスプレイにインナーの資料が映し出されて唖然としてしまった。
え? 俺知らないよ? こんなのがあるなんて?
それはゴムのような素材で、パワードスーツの下に着るものらしい。
思いつかなきゃ調べられないのは、データの悪いところだと思います。
シルナークはしかし、映し出された画面にも動じず、興味深げに眺めてから呟いた。
「ほほう……なるほどなるほど……そうか……。ならば力になれるかもしれない」
「何が?」
「いや? このインナーたぶん作れそうだと思ってな」
突然何を言い出すかと思ったらまさかの提案にさすがに俺も目を向いた。
「へ? そのインナー作ってくれんの?」
「ああ。衝撃に強い素材なら心当たりがいくつかある」
聞き間違いかと思ったが、シルナークは自信満々だった。
「ちょ、ちょっと待った。ホントにできるの? あんまり高いお金払えないよ?」
「何を言っている。魔石が出たんだろう? 安心しろ、格安にしておいてやるさ」
「ホ、ホントに? いや、値段もだけどさ。SF的な異世界の代物だよ?」
なんとなくゴム製っぽい服なんてこっちの、しかもエルフが作れるなんて思いもよらなかったが、シルナークからは不思議そうな顔をされてしまった。
「SFが何かは知らないが、インナーだろう? 用途を合わせれば、別にまったく同じ物じゃなくてもいいんじゃないか? この装甲もいくらかは後付けだろうに?」
シルナークはそう言ってリッキーの作った装甲を指した。
「そ、それはそうだけれども」
「なに、こちらから噛ませろと言い出したんだ。出来る限り協力はするさ。こんな面白そうなことを放っておく手はない。ドラゴンを単身で倒したんだろう?」
シルナークは町の中でも指折りの変人だという事を感じさせる、実にいい笑みであった。
そこまで言ってくれるなら、俺としてももはや言う事はない。
俺もまた町一番の変人らしく笑って、その技量を存分に振るってもらう事を決めた。
「俺、人生で一番服屋を尊敬したかもしれない……」
「それは少々遅いな。布は面白いぞ? いくらでも時間をかける価値がある」
交渉成立である。
俺達はがっちりと固い握手をして、パワードスーツをより完璧な物にすることを決めた。
「よしよしよし。なら一つ面白い情報がある! ここに来て引きかえすなんて言うなよ?」
「ほう。そいつはいいな。ぜひ混ぜてもらいたいものだね」
そこまで覚悟が決まっているというのなら話が早い。
すでに騎士団が家に尋ねてきたことで、計画は次の段階に進んでいた。
町のドワーフ達から、白い煙を出すオークについての噂を聞くうちに、俺はある名前にたどり着いた。
「それじゃあシルナーク……『蒸気王』という名前を聞いたことがあるか?」
「いいや、初耳だが?」
シルナークは情報通だと思っていたが、やはりそこは服屋さんだ。意識して調べでもしなければ難しいこともあるだろう。
リッキーが仕事を終えてやってくるタイミングも完ぺきだった。
「うわ! どうしたの? シルナークいるじゃん」
「グッドタイミングだリッキー」
フフフ、秘密基地の円卓に二人は寂しいと思っていたところだ。
さぁ、話し合いを始めるとしよう。
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