第9話

 話し合いが終わり、俺達はそれぞれの役割を果たすべく解散することになったのだが、リッキーは去り際に俺に訊ねた。


「そういえば肝心なことを聞いてなかったけど、君はこれで一体何をするつもりなの?」


 なんともいい質問をしたリッキーに俺は心を込めて、答える。


「そうだな……俺はこのパワードスーツで―――」


 それはこのパワードスーツが呼び覚ました幼い時の記憶がきっかけだった。


 すっかり忘れてしまっていたが、色々なしがらみが一切なくなった今だからこそ沸いてきた願望である。


 今までは胸に秘めてきたが、俺は初めて自分の野望を明確に口にした。


「ヒーローになるんだ」


 そう、ヒーローだ。


 勇者ではなくヒーローという名がしっくりとくる。


 些細な違いだが大きく違うこの野望を、共犯者に披露しておくのもいいだろう。


「……ふーん?」


 しかしリッキーはよくわからなかったのか軽く頷いただけだった。


「……」


 一大決心をあっさり流さないでほしいのだが。




 それからはもう一心不乱だった。


「テラさん! これで……間違いないか?」


 そして地中でようやく発見したSFチックな収納ケースをチェックすると、テラさんの声が反応した。


『確認しました。おめでとうございます。状態も良好なようです』


 パワードスーツの心臓部、その発掘に俺は成功したみたいである。


 専用ケースはボタンを押すとバシュっと音を立てて開き、中から青白く光を発する丸いメカが現れる。


 俺はあまりに美しいエレクトロコアの輝きをうっとり眺めて言った。


「じゃあ……これを取り付ければ今すぐにでも?」


『それはやめておいたほうがよいかと。こちらでマスター用に調整します』


「えぇ! ダメなのぉ!?」


 それはないだろうと俺は声を上げるが、冗談でもないようだった。


『このコアはメンテナンスが必要です。つきましてはパーソナルデータを入力してください』


「それはつまり……このスーツが俺専用になると?」


『はい。細かいデータの書き換えにも少々時間が必要です。あらかじめご了承ください』


「……なら仕方がないな!」


 ここまで来てお預けを告げるテラさんは中々罪なコンピュータだが、安全第一である。


 それに、これくらいは本番前のいいスパイスだった。




 お楽しみは後に取っておく。とてもいい言葉である。


 ここまで待ったのだから、あと少しくらいなんてことはない。……いや、まぁ、ちょっとでも早く見たくてしょうがないわけだが、ヒーローには時には忍耐力が必要な時もあるだろう。


「ヒーローか……実にいい響きだ」


 しかし、リッキーに対して口に出して明確に目標を口にしたのは俺にとってもよかったとそう思った。


 俺の中で理想像がよりはっきりとしたことで、やってみたいことが次々湧いてきた。


「……アレだな。マントというか、マフラー買ってくるか! 赤い奴!」


 俺は町中を散策しながら画期的なひらめきを呟いた。


 なんだろう。なくてもいいが、あった方が楽しい気がする。


 それに首は人体の急所の一つだ、守っておいて損はないだろう。


 思いついたことを片っ端からぶつぶつ呟きながら、町を見ていると普段は目に入らないようなものも目に入る。


 あれはパーツに使えるんじゃないだろうか? あれならいけるんじゃないか?


 考えつくことは多々あるが、お金はこの間リッキーに渡したのでマジで全財産だった。


 スカーフを買うお金もない以上どうすんべと金策に頭をひねっていたから、ちょっと脳みそに余裕がなかったのも確かだった。


 更に俺はここのところのハードワークと寝不足。


 そして意味の分からないテンションの末に若干だが冷静さを欠いていたと言えなくもない。


 案の定、ちょっと気を抜いた瞬間、躓いてしまった。


「あ……」


 体がふらつく。


 そしてこの日の俺は運もなかったらしい。


「あぶない!」


「ほへ?」


 馬の嘶きが聞こえた。


 振り向いた時には馬車がとてもおっきい。


 ふとああこれが噂に聞く転生一秒前かと思ったが、よく考えたらもうここは異世界だった。

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