胡蝶の夢

@TEKOSAN

第1話 この世界

深く 深く 落ちる

何も見えぬ 深淵に


深く


深く






「...また、同じ夢だ...」


目を覚まして開口一番にそうつぶやいたのは、坂田 正人という少年である。

寝覚めがあまり良くないと感じた正人は、自室の窓に近づきカーテンを開けた。


「うん...変わらない朝」


いつものように窓から外をのぞくと、空を車や人が移動していた。

人々は地上を移動するように空中を移動できるようになった。

住宅街には、色とりどりの植物が生える大地が点在しており、共生している。

町中の植物はコンクリートジャングルになるはずであった開発地をより身近に自然環境を感じる事ができるようにしている。


「...俺も支度しなきゃ」


通っている高校に行くために、正人は下の階に移動する。

朝ご飯を食べ、身支度を調え、いつもと同じ時間に出発する。

いつもと変わらない日常である。


高校に着き、自分が所属する教室に入る。

自分の席に着き、今日の予定について考えていると、教師が教室に入ってきた。


1時間目、歴史の授業である。


内容は世界の歴史についてだった。





今から200年前のある日、世界各地で不可思議なことが起きた。

人々が毎日夢を見るようになったのである。

世界各地で起きたこの現象は、最初はただの偶然であると、誰も気にとめることをしなかった。

夢を見ることは普通にあり得ることであり、ありきたりであったが故に人々は気のもとめていなかったのである。


しかし、不可思議なことはこれだけではなかった。

夢の内容を忘れることがなくなったのである。

大抵の場合、目が覚めるとき、夢の内容を覚えていること自体が少なかったことに対し、この事象は、かなりの衝撃になった。

専門家による調査が行われたが、原因がわかることもなく、時間だけが過ぎていった。


数年後、新たに変化が起き始める。

世界の各地で植物が生い茂る「夢の大地」が出現した。

出現した場所は、アメリカ・ブラジル・ロシア・イギリス・南アフリカ・オーストラルの6カ所である。

夢の大地は今まで地球上に存在しなかった植物・鉱物・動物が多く存在し、人々に大きな恵みを与えた。

夢の大地の産物は、研究を進める過程で、夢の中でしか存在し得なかったことを現実に再現する原理を解き明かすきっかけにもなった。

人々が「夢現現象」と名付けたこの現象は、世界各地で議論の対象になり、世の中の注目の的になった。

時を同じくして、これら夢を操ることができる人々が現れ始めた。

「覚醒者」と呼ばれたこの人々は、その能力を使い、さらなる技術の革新や、急速な社会の発展を可能にした。

そして2100年現在、研究や能力によって生み出されたものであふれた世界は、社会をさらに発展させるために尽力している。



「...何回聞いてもすごい内容だよな」


要するに、夢が夢であった時代は終わり、夢であったらいいなと思ったものは、現実で再現することが可能になった、ということである。

歴史でしか知ることのできない世界の変化だが、当時の世界はそれはもう大きく話題になったのであろうと正人は感じていた。


世界の変化の話が終わった教師は、別の内容に移る。

そのタイミングで正人は、外に視線を移した。


人々が夢で見ることを現実で再現している今の世の中を見ることで正人は再確認したのである。

再現された夢の産物は生活を豊かにし、新たな夢が活力を活力に、再び世界に新たことが起きていく。


俺は、今そんな世界に生きているのだと。





しかし、このときは考えてもいなかった。




この世界の危うさを

夢の産物の本質を

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