白黒の夢喰に、向日葵を【過去夢05】
鳥兎子
✦01✧
革命を起こす事が、自分の生きる
「軍統局 第二処 特務隊所属、
「
敬礼を決めて、
本物の『三橋祥吾 中尉』から殺略し、入手した軍服を着た。人種も年齢も星の数も詐称したのだ。黒傘を
「ようこそおいで下さいました、三橋中尉殿。ご視察の準備は出来ております」
「青臭い自分を出迎えて頂き恐縮です、
「ご期待頂き、光栄です。我々『妖狩人』の真の敵は、徒人ではありません。外敵に講ずるあまり、『妖』という内なる敵を仕損じては、我が国を守れません。徒人殺しで掟を破らぬ為にも、『半妖』という捕虜を活用致しましょう」
眼前に居る外敵には気付かないくせに、笑わせてくれる。
「そそられますね、『妖』という化け物に。真新しい彼らは、
翁は口角が裂けんばかりに笑い、後方の屋敷を示した。門札に刻まれる名は、『兎川家』だ。重い開門は導き、邸内の闇を光が切り裂く。銀鱗のビラ簪にて、
「初めまして、三橋中尉。『
「ならば、噂の化け物を早速見せて頂きたい。せっかちなものでね」
「丁度いい。道場で稽古の最中ですから、見学に参りましょう。兎川殿は、孫娘にも手厳しいのですよ」
「ご冗談を、浬殿。
嘲る翁は、懐から何かを取り出した……黒ずんだ杭など、どうするつもりなのか。道場に踏み入った瞬間、猛火の殺気が飛来する!
―― 兎耳の女?
「そこまでだ、
翁に黒杭を突きつけられ、彼女は正気に返る。怯えた瞳を見開き、呼吸を乱した。あんな杭……焼灰に出来ただろうに。兎耳はしなだれ、桐乃は膝から崩れ落ちた。
「お爺様……演出が心臓に悪うございます。来客では無く敵襲だと聞きましたよ? 」
「立派な働きを見せるのも、副隊長の役割だ。『さぷらいず』は楽しんで頂けましたかな、三橋中尉? 」
翁の硬質な微笑を伺い、こちらにヘラヘラと苦笑いする桐乃が対照的だった。
「……ええ。噂通り、戦車も溶解できる焔ですね。次の従軍でも、立派に役目を果たせるでしょう」
桐乃は子供のように駆け寄り、瞳を輝かせた!
「お褒め頂き光栄です、 三橋中尉! 彼の地には、女子供を蹂躙する卑しき者達が居ると聞きました。新たな鉄槌を下す為にも、どうか戦況をお聞かせください! 」
おかしな女だ。初めて会った上官なのに、眩しい笑顔を向けて、親しい友人かのように腕を引く。これが、『
「いえ、自分は……」
「是非、僕にも聞かせて下さい。 僻地ですから、情報に飢えているのです。出しゃばり桐乃は、包ましさを覚えるべきだけど」
「浬ったら! また私の事を馬鹿にするのね? 」
頬を膨らます桐乃に、浬は口元を袖で隠して笑う。二人の組紐の腕輪が、揃いの艶を返した。成程、
「しょうちゃん! 従軍の日が近づいてきて、緊張してるの……何かお話をしてよ」
「桐乃……前も言ったが、その呼び方はやめろ。自分の名前が
「あら。いつまでも『三橋中尉』じゃ駄目よ。私達、友達なんだから! 」
満月の夜。隣の縁側にぴょんと座り、桐乃は満面に花
「自分語りしか、してやれないが」
「なら、しょうちゃんの家族について知りたいな。異国で行商をしていたんでしょ? ……自由な外で生きれて羨ましい」
「病弱な母親と、寡黙な父親が居るんだ。異国で行商は出来なくなったが、遠方に越して仲睦まじく呉服を売っている。自分の親戚は多かったが、大人ばかりだった。一人っ子だったから、歳の近い兄妹と遊べる奴らが羨ましかった……。桐乃はどうなんだ? 」
「私? 父様は誇り高き、妖狩人。お爺様と同じね。母様は……『猛火の玉兎』。兎川家に捕らえられた、偉大なる化け物よ。妖狩人はね、強靭な妖から力を得る為に交わる事があるの。私達は、人の血脈に妖を溶かす為の生贄ってわけ。子孫が『人』の皮を被るまで、
深淵を覗いたように、暗い自嘲が似合わなかった。
「秘密を話してあげる。半妖は短命なのよ。人から妖に化した『原初の妖』に出逢わない限り、泥沼の運命は変わらない。私の
桐乃は縋るように、手首の組紐へ口付けをした。愚かな恋を突きつけられたせいか、彼女がいつか消えてしまうせいなのか、
「浬は、擬似妖力由来術式家門の長だ! 甘言を鵜呑みにしたのか! 好きな女を抱かない奴なんて、
「やめて。躰も血の繋がりも無くたって、遺伝子レベルで愛してるわ!」
「お前は恨むのを恐れているだけだ! 目を閉ざして逃げてばかりでは、自分の命も、いつか叶うはずの本当の恋も守れないだろ」
「なんて羨ましい男なの。守りたいひとの為なら、己の魂を
桐乃はふと、こちらの足元を見つめる。土に散った黄の花弁は、彼女が育てた向日葵だったのか! 残暑の命を踏み躙ってしまったというのに、桐乃は儚く微笑んだ。
「満月が綺麗ね。生き残って、皆で笑えればいい」
夜空を見上げる彼女は知らない。縁の下の柱には、爆薬が仕込んである。何度も、何度も。祖国と穏やかな日常を焼いた、化け物の巣窟を爆破しようとしたのに。火種を握り消した拳が、今宵も震える。
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