マラソン

しーえー

マラソン

 あなたはいま、マラソン大会に出場しています。

 参加申請をした覚えはありません。スタートの号砲が鳴った記憶もありません。気がついたらたくさんの人たちに囲まれながら走っていました。

 周囲は、和気あいあいとした空気が流れています。ときには励まし合い、またあるときは世間話で盛り上がりながら走りました。

 出会って、別れて、また出会って、なんだかんだ楽しく前へ進むことができています。


 あなたはあまり足がはやくありませんでした。

 仲良くなった人に置いて行かれることもありました。とても悲しくて、泣いてしまったことも一度や二度ではありません。

 でも、あなたは頑張り屋さんです。どんなにつらくても苦しくても、息を切らし、目尻に涙をためながら、懸命に走り続けています。

 そんなあなただからでしょうか。周りの人もいっぱい応援してくれました。声援と笑顔が、あなたの頑張る力になりました。


 のんびり歩く人がいました。

 どうしたのでしょう。なにか怪我でもしたのでしょうか。

 不思議そうにのぞきこむと、その人は笑って、走るの飽きた、と言いました。

 なんて不真面目な人なのでしょう。あなたは憤慨し、その人をほうって再び走りだしました。

 二度と会うことはありませんでした。


 給水所にたどり着きました。

 スポーツドリンク

 水

 ビール

 泥水

 の入ったカップがひとつずつ、計四つ並んでいました。

 そうです。このマラソン大会は、用意されている飲み物に統一感がないのです。飲み物と呼べないものも頻繁に置いてあります。

 品数もバラバラで、過去にはもっとたくさんあったり、逆にひとつしかなかったりということもありました。

 今回はアタリです。あなたは迷わずスポーツドリンクを手に取りました。一気に流しこみ、身体中にしみわたる感覚に浸ります。

 ゴールまでの道のりは遠いのです。まだまだ頑張らなければなりません。あなたはまた走り出しました。


 あなたは頑張り屋さんです。

 積み上げてきた足跡が自負に、自信になっていました。

 だからでしょうか。あなたは気がつきませんでした。

 給水所がひとりひとりに設けられていることに。

 あなたは、聞くことができませんでした。

 足を止めた人の声を。

 あなたの目には映りませんでした。

 給水所で、ゲロを吐きながらそれでもナニカを必死に喉奥に流しこむ人が。

 喉をカラカラにかわかしながら走る人が。


 あなたは走ることが苦手です。

 でも、頑張り屋さんです。

 つらさも苦しさも我慢して、一生懸命走っています。

 そんなあなたを周囲の人たちが応援します。

 あなたのマラソンは、まだまだ続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マラソン しーえー @CA2424

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る