第22話 真犯人発覚

 この頃暑いな。


 僕は暑苦しい教室から逃げるように、外の空気を吸うために新校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下に来ていた。


 涼しいな。

 けれどあと少しで、教室のクーラーがつくので、ここに来るのはあと何回ほどだろうか…。


「─────」


 ん?誰かの話し声が聞こえる。

 少し耳を澄ましてみると、声が1聞こえない。

 ということはスマホで電話をかけているということか?

 この学校では、というか中学校でのスマホの使用は全国的に禁止されているはず…。


 僕は、ルールを破ってスマホを使っているのは誰なのかが、好奇心で知りたくなってしまった。

 きっと話に夢中でバレないだろう…!

 よし。こっそり見てみよう。


 僕は、できるだけ足音が鳴らないようにして、少しづつ声のする方へ歩いていった。


「────菊池 冬美と付き合うということは


 龍生と別れてすぐだというのに、冬美はまた誰かと付き合ったのか……。

 あいつは本当に一途じゃないな。相手の男子が可哀想だな。と、思ったがすぐに先程の話と、僕の考えていることに矛盾が発生していることに気がついた。


 たしか、『成功しました』って言っていたよな。

 成功ということは誰かに頼まれて付き合ったということで間違いないよな……。

 怪しい。電話口に向かって話している人は誰だ?そして、電話の相手は誰なんだ?


 僕はせめて、ここで話している人だけでも特定するために、もう少し近づくことにした。


 なんかいけないことをしている気分になってきた。

 罪悪感で胸がツーンと痛くなってしまった。


「はい。菊池 冬美に、もっと俺の事を好きにさせてから、別れを告げます。どんな反応がするかたのしみですね」


 なんだって……!?

 好きでもないのに付き合ったのは、冬美ではなく、今ここで話している男子の方だったか。


 あ……。後ろ姿が見える。

 あの後ろ姿って、もしかして……青柳 晴太!?

 あいつはたしか女子からすごく人気がある男子じゃないか……。

 まさかあんな裏があったなんて……。


 電話の相手は……?

 やはり電話の声までは聞こえない。青柳くんの方が、相手の名前を出してくれないかな。

 もう少し近づけば聞こえるかな…?

 ほんの少しだけ近づいてみよう。


 ガサッ…!


 あ、やべっ!

 僕は地面に落ちていた枯れ枝を踏んでしまった。

 が、青柳くんは電話に夢中で気づくことはなかった。

 良かった……。

 このままここにいると気づかれてしまうかもしれない。

 とりあえずこの場は離れた方がいいな。


 僕はバレてしまうと酷い目に合いそうなので、ここまで近づいてきたときと同じように、足音が鳴らないようにゆっくりとその場を立ち去った。


 僕は教室に戻ろ道中、考え事をしていた。

 これは、人として冬美を助けた方がいいな。

 しかし、青柳くんの電話相手が龍生だとすると……。校長先生の願いを裏切ることになってしまう……。


 けれど、背に腹はかえられない!

 冬美には最後は酷かったけれどたくさんお世話になったんだ!………それなのに見捨てるなんてできるわけが無い!


 しかし、どうやってこのことを冬美に伝えようか。

 まだあの2人が付き合ったことを知っている人は少ないだろう……。

 そうなれば、LINE……は、もう削除してしまった。

 先生に頼む……。これだ!昼休みにおおのしんのところにでも行ってみよう。


 先程の電話のことが衝撃的すぎて授業に全然集中出来なかった。

 僕はともかく、冬美を貶める動機がわからない。

 先日の校長先生の件も本当に龍生が関わっているように思えてきた。

 龍生がバックにいるとして、校長先生を消す理由がわからない。

 僕だけじゃ考えていても何も変わらない気がしてきた。

 くそっ……。むしゃくしゃする。


 キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーンッ!


 やっと終わったよ……。

 誰よりも早く給食を食べ終え、一目散に職員室に向かった。


「大野先生いますか!?」


「あぁ、いるぞ〜?」


 少し遅れておおのしんの声が聞こえてきた。

 僕はおおのしんの元へ行き、少し来て貰えないかと頼んだ。

 おおのしんは迷うことも無く、僕と空き教室まで来てくれた。


「響。そんなに切羽詰まったような顔してどうしたんだ?」


 まだ給食を食べている人が多く、廊下を歩く人がいないため、おおのしんの声がいつも以上に空き教室に響いた。


「実は、────」


 僕は、今日の休み時間に起きた出来事を一部始終話した。「先生からの策は何かありませんか?」という言葉を最後に付け足して。


「難しいな……」


 そう言っておおのしんは腕を胸の前で組み、考えるように黙り込んだ。

 いつも教室ではヘラっとしていることが多いが、生徒の危機がきた時には、真剣に解決策を考えてくれるところがおおのしんのいい所だ。


「実はな、校長先生が辞職してから音信不通になっているんだ……」

「………えっ!?なんで!」


 慌てて聞き返したせいで、僕はタメ口をたたいてしまった。


「それは俺も分からないんだ……。俺の推測なんだが、校長先生は日向 遥高からメールが来たと言っていたよな?となるとメールアドレスが知られていることになる。だから、メールアドレスなどを変えたというのがあり得ると思うんだ……」

「けれど、そのメールの件って校長先生のスマホにきたんですか?」

「あ〜。その事なんだが、うちの学校の教員達も、校長先生のスマホの連絡先は知らないんだ……」


 たしかに……。そうなると音信不通になっていてもおかしくないな。


「話を冬美の件に戻すが、あいつに『青柳と関わるな』などと書いた紙をあいつの机や靴箱にでも入れておけばいいんじゃないか?」

「いい考えですね。そうなると誰が書いたかも分からないし、周りにバレることもなさそうですね今すぐに紙が欲しいのですがありますか?」


 おおのしんは、「待ってろ」と言って紙を取りに行ってくれた。


 それから、僕達はおおのしんの持ってきた紙に、『青柳はお前のことを貶めようとしている。だから関わるな』と書いて、冬美の靴箱に入れておいた。


 これ以上は僕達には何も出来ない。

 だから、ここからは冬美しだいだ。

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