第9話 盗賊の心中

無事にゲートを取り戻した俺達。そんな中、ひとつの疑問が残っていた。


「黒夜、どうやって概念そのものであるゲートを盗んだんだ?」


そう。本来触れるはずでないゲートを、あたかも黒夜は物のように掴んで盗んでいった事実がある。俺達の頭は混乱していた。


「にゃ、絶対に言わなきゃダメにゃ...?」


「黒夜、これはお前を責めてるわけじゃない。単純な好奇心を持って聞いてるだけだ」


すでに俺達は黒夜のことは許していた。ゲートも取り戻せたし、黒夜も泣きながら謝ってくれた。これ以上責めたらかえってきまりが悪い。


「...僕、常識改変は使えないんだけど、常識改変を数回使える道具を持ってるんだにゃ」


「常識改変を...」


「使える...」


「道具...?」


俺達3人は頭上にハテナマークが浮かんでいた。常識改変だって概念そのものだが、それを道具で出来るだと...?


「これなんだけど」


黒夜はポケットからなにやら奇妙な懐中時計を取り出した。


「上のボタンを押すと、願った通りに常識改変が出来るのにゃ。あと使えるのは2回」


「そのような代物がこの世にあるとは...驚きです」


ユナタは妙に関心している。物知りそうなユナタでも存在を知らないんだ、相当珍しい物なんだろうということは俺でも分かる。


「それを使って概念であるゲートを物にする常識改変をしたのか。それなら盗めるもんな」


「どこで奪ったの?」


「うっ奪ってないにゃ!これは自分を商人と名乗る人から買い取ったものにゃ」


「そんな奇妙なものを売ってるやつがいるってのか?」


ますます疑問は深まるばかりだ。ただでさえ出どころの分からぬ怪しい物を、それを人が売っているとなるともうきな臭い。


「まぁ変に首をつっこむのもリスクが高いよね。ボクらはこのまま人間界に戻ろう」


「そうだな、あぁ〜やっと戻れるぅ。実際は数日しか滞在してないけど、何週間もここにいた気がする」


「黒夜様は、これからどうされるのですか?」


「うぅっ...」


ユナタが黒夜に聞くと、黒夜は気まずそうに言う。


「...やっぱり、僕は人間界に行きたいにゃ!色々あったから言いづらいけど、どうしても会いたい人がいるんだにゃ」


「ん、待てよ。その時計で常識改変が出来るんなら、常識改変で人間界に行けば良かったんじゃないのか?」


「あっ」


黒夜の顔はどんどん歪んでいき、冷や汗をだらだらかいている。


「ごめんなさいにゃぁー!!」


「うぉっ、頭上げろって!」


皆は笑い、辺りはすっかり明るい雰囲気になっていた。


「じゃあそろそろ出発しようか!早くご主人の家に帰りたいし」


「そうだな。これで録り溜めたドラマが見れる〜」


「まっ待ってにゃ!」


帰ろうとする俺達を黒夜は呼び止める。


「いなりさん、ですよね...お願いです!僕と戦ってくださいにゃ!」


「ヴぇっ!?」


突然黒夜が言い放った言葉に一同は動揺する。今までずっと大人しかった黒夜が言ったことによって、余計インパクトが増している。


「いなり様に手出しはさせません。反省をされたのでは無かったのですか?」


「ま、待って違うにゃ!そういうんじゃないにゃ!」


黒夜に説明をしてもらうと、いなりと戦い負けることで、少しでも自分の罪を償いたいと言う。なるほど、いなりと戦って勝てることは絶対に無いから、必然的に負け試合になるのか。


「...ボクは嫌だね」


いなりは冷たく言い放つ。しっぽがいつもより下がっているのが印象的だ。


「黒夜はちゃんと反省した。反省してる人をいたぶるなんて、ボクの趣味じゃないからね」


「そこをなんとか...ゆ、ゆうとさん!僕を殴ってにゃぁ!」


大分取り乱してるな。黒夜の頭を撫でて落ち着かせてると、いなりはずるい〜ボクもぉと言ってくる。


「僕、罪を償ったことがなくて。だから、どんな風に償えば良いのかも分からなくて...それで...」


無言で窓の外を眺めていたいなりが口を開く。


「...はぁ。本気で戦ってもらうからね」


「えっ許可するのかいなり!?」


いなりは決心したように見える。どう考えが変わったのかは分からないが、いなりの目はいつもの明るい目に戻っていた。


「黒夜が危ないだろっ、ユナタもなんとか言ってやってくれよ!」


「...いなり様の望みとあらば、止める理由はございません」


「よぉし!じゃあ早速戦おう!」


そう言うといなりは、皆付いてきてと家を出て歩き始めた。一体どこに向かっているのだろうか...


しばらく歩くと、前の方に廃れた闘技場のようなものが見えてきた。


「ここが、ボクが修行に使ってた場所」


それを聞いて俺は驚く。以前から気になっていたいなりの修行場所...こんなにボロボロな場所だとは思ってもいなかった。


「先攻は黒夜で良いよ。けど、少しは楽しませてよね!」


こうして、ひょんな理由から決まった黒夜といなりの戦いは、始まってしまった。

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