どうやら俺は弟のクリエイトした「全スキル極振り最強ゴリラ」を、倒さないといけないっぽい。

ジョージキネマ。

プロローグ

 クソクソクソクソクソクソクソッ!!!


 俺は無様にも逃げることしかできなかった。先日の魔崖戦争で【英雄】という称号を手に入れたこの俺が。胸につけた星型のブローチは【英雄】であることを表す誇り高いものだ。落とさないように俺は手で抑えて走る。


 焦る心を沈め、草陰に一旦隠れる。俺は腿に手を当てた。だいぶ傷口が深い。治癒魔法をにバレないように使いながら、逃げ道を探さなければ。


 この鎧は逃げるには重すぎる。俺のスキル【疾風怒濤】で逃げ切るために、体は、できるだけ軽くしておきたい。荷物を選別しながら俺は冷静さを取り戻した。どうしてこうなったんだ…一体は何なんだ…!?



 六ヶ月前、レインランド帝国は、魔王二軍に占拠された大陸拠点・エジアン奪還作戦を決行した。莫大な戦費を費やしたことで、戦線が拡大し魔崖地域一帯を取り巻く戦争が勃発した。前線では冒険者の中でも選りすぐりの精鋭たちが活躍し、最終的に帝国はここを奪還することに成功した。


 俺、ディアン・ベアウルフはその中でも最も活躍した三人のうちの一人として【英雄】の称号を手に入れた。誰もが俺を褒め称えた。もちろん俺も誇りを胸にこの半年更にパワーアップをしてきた。


…つもりだったみたいだ。


 さっき言った三人のうち俺を除いた二人は今、目の前で白目をむいてぶっ倒れてる。


 うん、死んでるこれ。


 二人をやったのは今俺を追っかけてる変なやつだ。異様に膨らんだ胸筋、オークのような巨体、変な星型の眼鏡、そしてピンク色でモジャモジャの頭。俺も先ほど一瞬のうちに太腿に強力な魔力弾を打ち込まれてしまった。


 間違いない。あれが伝説の「魔王」…!!!

どこから現れたのかは分からない、しかし、あの禍々しいオーラ、半端なく感じる魔力量、異常なまでの頑強さ、あれは人間ではない。


 ズキズキとした腿の痛みが引いていく…そろそろ逃げなければ。


すとんっ


その時、俺の胸から【英雄】のブローチが落ち、闇夜の中で月の光を反射した。


「しまっ―」



 凄まじい轟音のあと一瞬だけ、俺の瞳は奴を捉えていた。やはり、こいつは人類の敵、いや「世界の敵」だ。




 俺は薄れていく意識の中最後の力を振り絞り【召喚の笛】を力なく吹いた。

「誰か、この世界を…」




―救ってくれ…

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