第38話 結婚式に明かされる衝撃の真実
そしてとうとう結婚式の日を迎えた。
チェスミール王太子が、夜会で暴露と断罪したのもあって、元平民と蔑まれることも無くなった。
陰口はあるかもしれないけれど、耳に入らない言葉などは全く気にならない。
ディオンルーク様は大変モテるので、何事か起きないか不安はあるが、摘める芽は摘んでおいた。
アルヴィナ嬢とグラーヴェ公爵は、結婚式には呼んでいない。
寧ろ、立ち入り禁止である。
社交界から締め出された形になったのだが、自業自得である。
なにせ、帝国からレオナ様とその婚約者のアルノート様もご列席頂けるのだ。
名代として、皇太子殿下もいらっしゃると返事を頂いている。
サラセニア王国からは、国王ご夫妻と尽力してくれたフェンブル公爵夫妻。
そして、カトカの兄であり、次期辺境伯となられるユリウス様もいらしてくださるそう。
この方は多分、国王夫妻の護衛も兼ねているのだろう。
ざわざわと人々の話し声が、控室にも届いて、私はそわそわと落ち着かない気持ちになっていた。
白いドレスは、後ろに長く裾を引きずるデザインで、ヴェールも長い。
とても手の込んだ薄いレースと、レースに施された銀色の刺繍が美しい。
サラセニアの王族が結婚式に着るドレスで、身体に合わせてお針子が綺麗に仕立て上げてくれた。
銀の
永遠の幸せという意味を持ち、神の気まぐれで生まれた宝石だという。
そんな物を私が貰っていいの?
初めて見た時は震えた。
すぐに強盗が入るんじゃないかと警戒しすぎて眠れぬ夜も過ごした。
あまりにも私が脅えるので、苦笑した侯爵夫人がきちんと宝物庫に収めてくれたのである。
今はその
時間になると、実の父親が控室に迎えに来た。
「見違えたぞ、アリーナ」
「お久しゅうございます。お父様」
きっと、彼を面と向かって父と呼ぶのはこれで最後だ。
父は、目に涙を浮かべつつ、頷いた。
控室から、大聖堂の入り口の大扉まで。
それが平民である父に許された時間。
扉の前で待っていて下さったのは、サラセニアの国王陛下だ。
実父から義父へ。
私は差し出された腕に手を置いて、祭壇の前に立つディオンルーク様の元へ一歩一歩絨毯を踏みしめて歩む。
そして、夫となるディオンルーク様に私を引き渡して、国王陛下は最前列の席へと戻った。
教皇猊下の、寿ぎの言葉と、神聖なる結婚式のお言葉を頂く。
恙なく進むかと思われたが、形式的な問いかけの際に、事件は起こったのである。
「出席者の中でこの結婚に正当な理由で異議がある者は申し出よ。今、申し出がなくば…」
「異議があります!」
嫌な予感はしてましたけど、誰でしょうか。
男と女、二人分の声がして、私とディオンルークは振り向いた。
男の方は。
マックスてめぇ……何しにきやがった。
思わず顔に出そうになって、私は淑女の仮面を被る。
穏やかな笑みを浮かべた私を見て、マックスは首を傾げた。
そして、マックスは腰が引けたようになって、一言だけ告げて逃げ出した。
「ひ、人違いでした」
ミリーを見れば、怒りの形相で今にも立ち上がりそうだった所だったが、座り直して私に満面の笑顔を向けた。
ああ、わたくしが贈ったドレス、良く似合ってるわ。
それに、マックスが腰抜け
私もミリーに微笑み返す。
そしてもう一人。
目深に被った白いフードをたくしあげて現れたのは。
星の妖精と言われれば納得してしまいそうな、銀色の髪に灰色の大きな瞳の美少女。
隣のディオンルーク様を見上げると、私には向けた事のない半眼で妖精を見ていた。
庇護欲をそそるような華奢な体には、結婚式のドレスと勘違いされそうな、白と銀のドレスを纏っている。
少なくとも、腰が引けて逃げ出したマックスよりは胆力があるな、と私は感心した。
「ディオンルーク様とわたくしは愛し合っておりますし、結婚の約束もございます!」
うん?
何という大ぼら吹きだろうか。
相手が誰だか知っているけれど、私は声に出して問いかけた。
「ディオンルーク様、あの女性はどちら様でしょうか?」
「シャルロッテ・アーベライン伯爵令嬢で、15年振りくらいに顔を合わせたな。勿論結婚の約束などしていないし、愛してなどいない」
「え?15年振り?」
「子供の時に会ったきりでは?」
「婚約など最近までされていなかったはず…」
客席がざわざわとしているが、殆どシャルロッテに対して否定的な言葉である。
「そんな酷い事仰らないで……アリーナ嬢に言わされているのでしょう?」
「いいや?俺はアリーナを愛していて、君の事は手紙を貰うまで忘れていたよ」
激高する訳でもなく、穏やかに淡々と、ディオンルーク様が仰る。
それに夜会でも、色々事件はあったので皆様も慣れたものだ。
「それは錯覚ですわ!アリーナ嬢が愛犬に似ていたからでしょう?犬は人間と結婚出来ませんもの!」
「あい、けん」
私はその言葉を呆然と繰り返した。
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