魔王の代わりに召喚された僕

にゃべ♪

王国編

召喚

第1話 魔王召喚

 瀬戸内海に面した海辺の地方都市、舞鷹市。人口10万人の穏やかで平和な街だ。夜も明けてすっかり空も明るくなり、小鳥達のさえずりも周囲に賑やかに響き渡る。世界を照らす朝日は住宅街にも満遍に降り注ぎ、その一角の住宅の子供部屋の窓にも光を届けている。

 その部屋の主の少年は自室で布団にくるまり、スヤスヤと惰眠を貪っていた。スマホの目覚ましはとっくに鳴り終わっている。時刻は8時15分を過ぎた。


「明! いつまで寝てんの! もう16歳でしょ! 自力で起きな!」

「もうちょっと……」

「起きんかいっ!」


 母親に掛け布団を剥がされ、明は渋々目を覚ます。それは彼の朝のルーティーン。起き上がった事を確認した母親はすぐに部屋を出ていった。


「朝ご飯、冷めない内に来なよ」

「へぇ~い」


 明は適当に返事を返して支度をする。しっかり朝食を食べ終えた彼は学校へと急いだ。その道中でパンをくわえた転校生と角でぶつかる事もなく、無事に高校に到着。2年生の自分の教室についた頃にはホームルームが始まっていた。

 明は気配を消してこっそり後ろのドアから入ったものの、普通に先生に注意される。


「瀬尾、月曜から遅刻とは大物だな」

「ども~」

「後5分早く家を出ろよ」


 先生の弄りに教室内で静かな笑いが起こる。こうして自分の席についた彼――瀬尾 明――は、寝ぼけまなこで先生の話を聞く。彼の耳に、半年前に行方不明になった同級生の話などがサラッと素通りしていった。

 その後は昨日と同じ時間が過ぎていく。彼は普通に従業を受けて、休み時間には友達と下らない雑談を交わし、昼休みにはぼうっと窓の外を眺めていた。


「ふあぁ~あ。早く帰ってゲームしたい」



 ――その頃、とある異世界の小国では、王が自国に迫る問題に頭を悩ませていた。国の外れにある森に魔族が住み着き始めたのだ。魔族――魔人族や魔獣――がある程度の数を超えて増えると、その周囲が魔界と同じ環境に変わってしまう。魔族にとっては心地良くても、この世界に元から住む生き物達にとっては汚染されたも同然。

 そのため、魔族討伐隊が編成されたものの、いくら倒しても魔族の増加スピードの方が早く、対応が追いついていなかったのだ。


「ああ、一体どうすれば」


 玉座に座った王は頭を抱える。その様子を心配した側近が彼に声をかけた。


「こうなってしまっては、もはや切り札を呼ぶしかありませぬぞ」

「既にやっておる。もうすぐここに来るはずだ」


 王がそう言ってドアの方に目をやると、そのタイミングでバァンと言う音と共に勢いよく開け放たれる。その場にいた家臣の者達が驚いて一斉に顔を向けると、現れたのは背が高い上に大きなとんがり帽子を被った全身黒ずくめの魔女。

 その特異なシルエットは、この国どころか世界中に名前が知れ渡っている有名人だ。彼女は帽子のツバをずらして、その碧色の瞳をこの城の主にはっきり見せる。


「久しぶり。折角旅行してたのに呼び戻すって、何があったのよ」

「おお、大魔女レミアよ。そなたに助けて欲しいのじゃ。今我が国はとんでもない危機に陥っておる」

「もしかして森に現れた魔族の事?」

「そうじゃ! 話が早くて助かる!」


 悩みを一言で言い当てたレミアに興奮した王は、興奮してガタッと立ち上がる。


「そ、それで何はいい手はないか? そなたほどの者なら……」

「あるよ」


 王が全てを言い終わる前に、彼女は彼の欲しい言葉を秒で告げる。そうしてセクシィに腰をくねらせて左手を軽く腰に当てると、ニヤリと口角を上げた。


「あいつらは魔王には逆らえない。魔獣だってそう」

「だ、だろうな……」

「だから魔王を召喚して、出てくるなって命じさせればいいのよ」

「ま、魔王を……召喚……だと?」


 レミアのとんでもない作戦を聞いた一同はあんぐりと口を開ける。王ですら開けた口が塞がらなかった。


「流石は稀代の大魔術師と呼ばれるだけはある。そなたは魔王すら召喚出来ると言うのか」

「そんなの余裕よ。私に任せなさいな」

「しかし魔王に言う事を聞かせるなど……」

「魔法で洗脳するのよ。それで解決」


 彼女は自信満々に自分のプランを披露する。この世界の全てを破壊し尽せるとも言われているのが魔王と言う存在だ。その強大な魔力は、世界の理すら捻じ曲げるとも言われている。

 そんな人知を超えた存在を、誰も敵わないと言われている最強の魔族の王を、レミアは自分の魔法で従わせると事もなげに言い放ったのだ。


 どれだけ自身の魔法に絶大な信頼を寄せているのかと、王は感心するやら呆れるやら。


「そなたほどの大魔女が言うのであるから、間違いなく出来るのであろうな」

「当然よ! 早速準備するわね」

「あ、ああ、任せた……」


 何もかもが規格外の大魔女の提案を、王は一言も異を唱える事なく全て飲み込んだ。こうして、すぐにレミアの立てた計画が実行に移される。

 場所は城内にある大聖堂。そこにある席を全て取っ払い、彼女は部屋の中央に魔法の杖で召喚用の魔法陣を描いていく。みるみる内に、王のお抱えの魔法使いの誰にも理解出来ない複雑な術式が刻み込まれていった。


「流石は大魔術師……このような見事な魔法陣は初めて目にします」

「高度で複雑な計算式によって導かれておる。これならば、かの魔王も召喚出来るやも知れぬのう……」

「これほどまでに複雑なものを全く間違えずに……とても人間業とは思えぬ」

「あ~外野うっさい。見るのは許すけどまずは黙れ。追い出すよ!」


 研究のためと称して魔法陣を見に来ていた宮廷魔術師達は、レミアの逆鱗に触れて全員が退室させられる。広い部屋に1人きりになり、彼女はようやく落ち着いて魔法陣を完成させた。


「この魔法陣、久しぶりに描いたけど今回も完璧だわ」


 うんうんとうなずいたレミアは、自身の描いた魔法陣の出来を自画自賛する。それから杖をアイテムボックスに戻すと、両手を特殊な形に組んで意識を魔法陣に向けて集中させた。

 彼女の意識の中に複数のイメージが同時展開していく。それをひとつずつクリアしていく事で、不定形だった実像が1つの実体に収束していった。


「深層魔界意識接続120%……。特異点サーチ終了……。障壁突破、オールクリア……。魔導召喚! いでよ魔王!」


 魔法陣を通じて意識を魔界と繋ぐ事で、魔王のそれを完全に掌握したレミアが呼び出しを確定。条件をクリアした事で、魔法陣がゆっくりと回転を始めた。やがて、高速回転する光の渦の中から魔界特有の魔素が溢れ出す。

 大聖堂に紫色の霊気が一瞬で充満して、次の瞬間には魔法陣に全て吸い込まれた。この現象を確認した彼女は、召喚成功を確信して握り拳を軽く引く。


「ヨシ!」


 魔素を吸い込んだ魔法陣は逆回転を始め、対象者の転送を開始する。魔法陣から立ち上る光が人の形を取り始め、やがて完全に固定化された。

 その人影を目にしたレミアは、にこやかな表情を浮かべながら話しかける。

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2024年11月30日 19:30
2024年12月1日 19:30
2024年12月2日 19:30

魔王の代わりに召喚された僕 にゃべ♪ @nyabech2016

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