第30話 スポーツ観戦が始まる


 トイレを済ませ、観客席に戻ると。出場選手達が挨拶を始めて開会式が終わったところだった。


「おかえり。今が開会式終わったところだから試合ももうすぐ始まるぞ」


「よかった。じゃあ今日は楽しまなきゃね」


「最初の試合は真夜の中学校みたいだぞ。樫木中学校だろ」


「そうなんだ」


 開会式で今日のプログラムが発表された。


 最初に行われるのは真夜の中学校である樫木中学校だ。


 先ほどトイレに行こうとして同じ中学校の生徒に会ったことにより、ふと真夜は気になった。


「誠也ってどこの中学出身なの?」


 今日は市内の中学校が集まった大会だ。


 自分の学校が出場しているのならば、誠也が卒業した母校の中学校も出場するのではと。それもあって誠也はこの大会を見に来たのだろうか、と思った。


「俺は花芝中学校ってところだ。今日はそこも出場するんだと」


「へー。やっぱり自分の母校の中学校は応援するの?」


「どうだろうな。するかもしれないし、しないかもしれない」


 誠也はどちらなのかはっきりしない曖昧な返事をした。


「そっか」

 真夜にとっては自分だって別に自分の中学校を応援しに来たわけではないのだ。


 今日はあくまでもスポーツ観戦という誠也との最後の思い出作りをする為に来ただけであり、自分の学校の応援に来たつもりではない。自分の中学校を応援したいかというと、今は学校に行ってないのだから微妙な気持ちだ。


「ほら、最初の試合始まるぞ」




 まず第一回戦は樫木中学校と宮森中学校という学校だった。


 試合用のユニフォームに着替えた集団が体育館に現れた。


 女子バスケットボールの試合なのだから、もちろん出場選手も全員女子中学生だ。

それぞれ背番号のぜっけんをしている。


 みんな真剣な表情で互いの学校の生徒達と顔を合わせるのもどこかこわばっている。

ここにいる出場選手達は皆、一年生の頃から毎日厳しい特訓をした上でここへ来たものばかりだ。


 三年生は高校受験が控えているので最後の引退試合ということもあって、部員にとっては最後の見せ所だ。


 遊びなどではない、最後だからこその真剣勝負。

 それぞれがそれまでの練習の成果を出す為に、真剣な表情だった。


 選手全員がバスケットコートに並び、互いのチームに挨拶をする。

 固定の位置について、ホイッスルが鳴り響く。


「始まった!」


 先にボールをとったのは樫木中学校のチームだった。


 きゅっきゅ、とシューズが床をこする音が体育館中に鳴り響き、会場中に歓声が響き渡る。


 応援団の「頑張れー」「ファイト!」といった声も響く。


 自分の子の活躍を記録に残したい保護者達はスマートフォンのビデオカメラを回している。


 樫木中学校のユニフォームの背番号3の女子が勢いよくボールを投げて、それを同じチームの背番号7番女子がキャッチし、ドリブルをしながら走った。


 敵チームがディフェンスをして行き手を阻むが、7番の女子はうまく避けてゴールへと向かった。


 そのままドリブルを続け、ゴールの前の敵チームの5番と4番がディフェンスをする。


 7番はドリブルをしながらじりじりとにじり寄って、シュートする判断を決め、床を蹴ってゴールへとボールを投げ入れる。


 ばいん、とボールはゴールにあたり、ネットに入った。

「樫木中学、シュート!」


 途端に「ワァー!」という歓声が鳴り響く。


 得点表の樫木中学校に点数が入った。


「凄い、いきなりシュート決めた!」


 自分の中学校を応援するつもりはなかったが、試合を見ていてその迫力で自分の中学校が勝つのか負けるのかというドキドキした気持ちが出てきた。 


 試合は続き、今度は宮森中学校のチームが先にボールを取った。


 宮森中学校の背番号2番の女子がドリブルをしながら素早く敵側のゴールへ走った。

2番の女子は樫木中学校の二人がかりのディフェンスでなかなか進めず、奥に回った4番の女子と目が合い、2番はバトンタッチするがごと4番の女子めがけてくボールを投げた。


 4番の女子がそれをキャッチすると、そのままドリブルで反対のゴールへ進む。


 4番の女子はすばしっこい動きで相手のチームの選手を避けつつ、タイミングを見計らってシュートした。そのままゴールに入り、宮森中学校がシュートした。


「あー、残念」


 いつの間にか、真夜は自分の中学校を応援したい気持ちにかられた。


 バスケ部に出てる選手に自分の知り合いはいないのに、やはり同じ学校というのは少しだけ親近感がわく。応援したいチームがいるだけでも試合は見ていて楽しいものになってきた。


 そのまま試合は続いて、タイムが残り2分となった。


 またもや宮森中学校が有利になり、敵チームのゴール目指してドリブルした。樫木中学校のディフェンスが二人がかりで止めようとするが、宮森中学校のチームはディフェンスの奥にいた味方の3番にボールを投げた。


「あ、ボール取られた!」


 そのまま3番の女子がゴールに向かってシュートを決めようとしたところだ。


「あっ」


 うまいこと樫木中学校のチームの背番号1番がガードをしてボールをはじきおとした。


「うまい!」


 1番が落としたボールを樫木中学校の5番がうまくキャッチして5番はドリブルをしながら相手チームのゴールへ向かう。


「残り三十秒!」という審判の声が聞こえる。


 ディフェンスをされ、またもやボールを別の選手に渡そうかと迷っていた表情をしていた。しかし、残りのタイムはごく僅かだ。5番は一瞬別の選手にボールを投げようかと悩んだ素振りを見せが、時間がないことにより決意を決めたらしく、かなり距離の離れた位置ではあるが、そのままゴールへと投げ込んだ。


「あっ!」


 かなりの距離だったが、奇跡的にそのままシュートが決まり、ゴールにぼすん、とボールが入った。


 タイムぎりぎりでの奇跡に会場中が「ワーッ」と歓声を上げた。


「そこまで!」

 試合終了のホイッスルが鳴り響いた。


 ギリギリで樫木中学校がシュートを決めて、結果は22対24で真夜の中学校の勝利だった。


 あまりの奇跡だったために、樫木中学校の生徒はシュートを決めた5番に「よくやったね」とばかりに抱き着いたりしながら喜びを分かち合っていた。


「凄い、あんなギリギリで勝てちゃうなんて!」


 ハラハラしていた試合に、真夜は途中から夢中になり、最後の瞬間を見て、感動していた。


 自分の中学校を応援しにきたわけではなかったが、それでも試合を見ているうちに引き込まれたのだ。


 残り時間僅かな中で、あんな奇跡を起こし、チームに勝利を収めた。


 バスケットコート上で互いのチームが「ありがとうございました!」と頭を下げ、退場していく。



 次の試合までへの十五分の休憩時間になった。


「わー、手に汗握っちゃった」

「ほら、スポーツ観戦も楽しいもんだろ」


 誠也の声がかかった。試合に夢中になりすぎて、誠也の方を見るのを忘れていた。


「うん。まさかこんなに夢中になるなんて思わなかった」


 真夜は自分の中学校がどうなるかを見ていて楽しかった。


 勝負の行方はどっちが勝つのかはわからない。だからこそ、リアルタイムで楽しめるスポーツ観戦というのは楽しい。

 プロのスポーツ選手の試合ではなくても、一般人の中学生の大会というのも面白いのだ。

 スポーツ観戦はあまりしないし、これまで部活の応援なんて行ったことはなかった。

しかり、いざリアルタイムで観戦していると、緊張感もあるものだ。


 こうして真夜の中学校の試合は終わった。

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