第28話 あなたと会える最後の日
目的地の場所に着き、駐輪場に自転車をとめた。
この地区での夏休みの部活などの大会が行われる県営体育館だ。
普通の学校の体育館と違い、館内も学校の体育館とは比べ物にならないくらいの面積の広さがあり、観客席もあってかなりの収容人数だ。
誠也の言ってた通り、今日はここでこの市内の中学校のバスケットボール部がここで試合をするようだ。
なので体育館の入り口はこの大会を見に来たであろう人々で溢れていた。
体育館前のバス停からも続々と人が降りてきて、観戦目的であろう者達が乗ってきた車が広い駐車場にたくさんとめられている。
おそらく出場する中学校のバスケ部の部員の友人や保護者達に一般の観客などが集まっている。
そして体操服姿の集団がぞくぞくと会場内へ入っていく。
恐らく今日の大会に出場する学校の生徒達だろう。
赤いラインが入った体操服、紺色のハーフパンツ、黄色のゼッケンがついた体操着など、それぞれの学校によって違う体操着からここには色んな学校の女子生徒達が集まっているのだ。
その中でふと、見覚えのある体操着の女子生徒達が何人か見えた。
「あれ、うちの中学校の……」
やや赤色が入った茶色のハーフパンツ、袖のラインも同じ色で胸には青いゼッケンにそれぞれの名前が記されていた。とてもよく見覚えがある、自分の学校の体操着だ。
「そっか……市内の中学校の部活の大会ってことはうちの学校も出場するんだ」
たまたまこの日に真夜の中学校が出場する日程とかぶっていたのだ。
「でも、私はバスケ部に知ってる子、いないし……誰にも会わないよね」
真夜にはバスケ部の知り合いなどいない。
一年生の頃にたまに話をしていたクラスメイトにはバスケ部の部員はいなかったし、二年生のクラス替え以降、まともに学校に行ってない真夜は二年生からの新しい友人もいない。
なので、二年生のクラスメイトがいたとしても誰がバスケ部の部員の生徒なのかなんて知らないのだ。
バスケ部に同じクラスの生徒がいたとしても全然顔を合わせたことがないのだから知らない。
なので知り合いに会う可能性なんてないだろうと思っていた。
しかし想像していたよりも人がたくさんいる会場に、真夜は少し怖くなってきた。
これまでは学生があまり外にいない平日の時間帯に出歩いていたのだ。
ところがこの日は夏休みの大会ということで会場に大勢人がいる。
学校へ行っていない真夜にとって、こんなに人がたくさんいる場所に来るのは久しぶりだ。
なぜ誠也はこんな場所に行こうと思ったのだろうか、もっと静かな場所がいいのに、と少しだけ不満もあった。
「だめだめ、せっかく誠也が行こうって言った場所なんだから、ちゃんとここに来なきゃ」
そう思い、真夜は県営体育館内に入っていった。
玄関には立て看板に今日の催しが書かれていた。
真夜はそれで「あれ?」と思った。
看板には『第三十八回 中学校女子バスケットボール大会』と書かれている。
「あれ? 今日ってバスケットボールの試合っても女子バスケ部だけの試合なの?」
そういえば確かに先ほどの体操服の集団は女子生徒ばかりだった。バスケというと男子のイメージがあるが、今日ここで行われるのは女子の大会だったのだ。
「誠也って女の子の試合が見たかったの?」
そう思うと一瞬だけやましいことが思い浮かぶ。思春期男子生徒ならではの心で女子生徒に興味があるのではないかと。それであえて女子の大会を見たかったのではと。
「ううん、きっと誠也はあの日から二日後に会えるってことで二十一日の今日にしたんだよね。いつも二日後とに会ってるから」
前回会ったのは十九日の金曜日だったからその二日後というと今日である。
誠也は夏休みの平日は学校の補習に行かなければならないのだからあえて日曜日の今日にしたのだろう。
「さて、中に入ろっと」
自動ドアを開いて玄関に入ると、ロビーには外と同じようにやはり人がたくさんいた。
受付カウンターの横には館内マップが置かれている、それを一枚もらい、うろうろする。
館内マップには試合が行われるバスケットコートのあるメインの体育館になっているホール以外にも会議室などがあり、多目的室やトレーニングルームに出場選手の控室や医務室などがある。
部活の大会が行われる大きな体育館なのだから、たくさんの部屋があるのだ。
思っていたよりも人の数が多い会場内で誠也に会えるだろうか、という不安はあったが誠也は玄関に入ってすぐの通路にいた。
「真夜、ちゃんと来れたんだな。ここ、ちょっと遠いから道に迷ってないか心配してた」
「うん。ちゃんと場所調べてきたから」
「じゃあ行こう。あと二十分くらいで最初の試合が始まる。一番見やすい観客席見つけたから」
最後の日だというのに、誠也はやたら明るかった。
前回に会ったような暗い雰囲気ではなく、以前のようなノリなことに、真夜は少しだけ安心した。
これなら今日は誠也と最後まで過ごせる、と。今日の誠也がそんな感じでよかったと思った。
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