七月十九日(金曜日)
第25話 あなたは突然言い出した
誠也がすぐに帰ったあの日から二日が経った。
本来、学校へ行っていれば今日は終業式で明日からは夏休みという学生には嬉しい日だ。しかし、学校に行ってない真夜にとってはそれは関係ない。
以前は二日ごとに誠也に会えるのが楽しみでしかたなかったが、二日前のことを考えると憂鬱な気分だった。
あの星を見に行った夜にあの話を聞いてから、誠也とどんな風に話せばいいのかがわからなくなってしまったのだ。
そしてやはり二日前は気まずいままでろくに話をすることもできなくなった。
今日も誠也はあの場所にいるのだろうかとやはり考えてしまう。
もう以前のように話すこともできないのなら、もう会うのをやめた方がいいのではないかと思えた。
しかし、せっかくできた新しい友人を失いたくない。
学校によりどころがなかった真夜にとっては今は誠也といることが楽しかった。
せっかく仲良くなれたのに、ここで終わりにしたくない。
やはりそう思い、今日も真夜はあそこへ行く準備をした。
自転車に乗り、河原に止めると、今日も誠也は先に来ていた。
「誠也、今日も来てたんだね」
「ああ」
真夜が気さくに話しかけるが、誠也はまたもや二日前と同じ表情で川を見つめていた。
まただ、またこの気まずい雰囲気だ、と真夜は辛くなった。
これでは結局二日前と同じだ。何を話せばいいのかもわからず、ただ気まずくなるだけ。
何を言えばいいか、と迷っていたところ、誠也が口を開いた。
「真夜、俺達そろそろ会うのをやめないか」
「え……?」
誠也の突然の言い出し。それも真剣な表情で。もう会うのをやめようというのだ。
前回までそんな素振りを一切見せなかった。
また会えると思っていたのに、突然にそんなことを言い出したのだ。
「な、なんで……?」
真夜は戸惑った。
ここに二日に一度来ることが楽しみになっていた真夜にとって、誠也に会えなくなるというのは寂しいという感情があるからだ。
ここに来れば、またおしゃべりができると思っていたから。
しかし、星を見たあの日から家族の話をして気まずくなってしまった。
誠也はそれが嫌になってしまったのだろうか、と震えた。自分が嫌なことを言わせてしまい、それで悲しませてしまい、そんな自分とはもう会いたくないのかと。
誠也は理由を話し始めた。
「俺、夏休みになったらここに来るのが難しくなりそうなんだ。夏休みになったら一学期で授業を休んでた分、夏休みの間は補習に出なきゃいけないんだ。ちゃんと補習に出ないと単位が取れなくなる。進級できなくなるかもしれないって先生に言われたんだ。土日は家でもしっかり勉強して追いつかなきゃいけないし。一学期に休んだ分、夏休みに補習で学校に行かなきゃいけない日が多くなる。それで気軽にここに来ることはできなくなるんだ」
高校は義務教育である中学校と違い、単位というものがある。
義務教育中で単位がなくても進級できないというわけではない公立中学校の生徒の真夜のようにずっと休んでいるわけにはいかない。中学校でも私立などでは出席日数と単位の概念がある。
授業を休めば出席日数が足りなくなるし、試験で点数を取らなければそれも単位が取得できない。
授業を休んだ分、どこかでそれを補わなければならない。それで一学期に抜けた分、補習を受けて単位を取得せねばならないというのだ。
「あまり学校に行く気がなくてさぼったりしてたけど、先生にも言われたんだ。夏休み中に補習に来ないと留年するって。もしかしたら学校もやめることになるかもしれないって」
誠也が学校を休むことが多かったということは、どこかで押し寄せが来るはずだったのだ。
「やだ、会えなくなるだなんて。ただ忙しくなるってだけでしょ?」
誠也には誠也の学校の事情がある。会えなくなるのが嫌だという子供の我がままのようなものは通用しない。
しかし、真夜にとっては誠也に会えなくなるなんて嫌だった。ようやくここで知り合えたのに、仲良くなったのに。先日は気まずかったとしても、またこれから以前のように話せるようになると信じていた。
「ごめんな真夜。補習以外にも家でやらなきゃいけない課題もたくさん出そうなんだ。だから俺はずっと忙しくなる。だからここにはもう来れない」
「そう……なんだ」
真夜はまたいつも通りここで誠也に会えると思っていた。しかし、それはできなくなるのだ。
自分と同じように学校を休んでいると思っていたが、それは高校生である誠也にとってはいけないことだったのである。本来やらなければならないことをしていなかったのだ。
そして誠也はこう言った。
「それに、真夜も夏休みに日中出歩くなんて嫌だろ? 夏休み中って学生が平日にもたくさん町に出歩くんだぜ。そんな暑苦しいところなんてどこへ行っても窮屈なだけさ」
これまでは不登校だったからこそ、本来学校に行ってるはずであろう時間帯な平日の日中に行動していたのだ。先日は補導員に会ってしまい、その次には夜に会うことになったが本来、夏休みというものは真夜と同じ学校の生徒達も休みになる。
夏休みになれば、日中に外へ出歩く学生が多くなる。
夏休み中はずっと部活の生徒もいるだろうが、部活は午前で終わる部も多い。
となると、夏休み中は町中に学生があちこち出歩いてるのだ。
これまでの静かな平日ではなく、町中には普段学校に行っている学生で溢れる。
むしろ夏休みだからこそ、日中にあちこちで歩いても不自然ではないし怪しがられないからいいのではないんだろうか、と思うがそれは真夜がそう思うだけだであって誠也には不都合なのかもしれない。
「俺も忙しくなるし、やっぱりこれまで通りにはいかなくなるのさ」
「そうだよね……誠也には誠也の事情もあるものね」
この関係がいつまでも続けばよかったと思っていた。しかし、人間それぞれ事情があるのだ。
どこかで何かをすれば、その分どこかで押し寄せる。こんなことをいつまでも続けられるわけがないのだ。
「誠也と会えなくなるって寂しいな。せっかくこうして仲良くなれたのに、でも仕方ないよね」
真夜もまたそれをわかっていた。
中学生である自分だって本来は学校を休んではいけない。ちゃんと学校に通わなければならないのだ。それを休んでいた。それはやはり学生として本来やらなければならないことから逃げているだけなのだ。
結局、学校を休むことはだめなのだと、誠也の話で思った。
「俺も寂しい。ここに来るの楽しかったし、真夜と色々おしゃべりすることも楽しかった。けれど、やっぱりさぼったことは押し寄せが来たんだ。このままじゃまずい」
「そう……だよね。やっぱり学校に行くことは大事だもんね」
現実を見せられた。学校を休んで楽しいことをしていたと思っていたが、それはやはり進級にか関わるし、これからの将来にも関わる。
いつまでもこんなことをしているわけにもいかないのだ。
真夜は何と言ったらわからなかった。
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