七月十日(水曜日)
第17話 二度目のあなたと会う
あの日から二日経った。今日はあの場所へ行ける。真夜はいそいそと用意をした。
日焼け止めをたっぷり塗って、日焼け予防をする。
髪をブラシでよくといて整える。
今日は普段はつけないものを頭につけた。おしゃれにキラキラしたラインストーンのついたヘアピンだ。父が昔、お祭りの屋台でくれたお気に入りのものだ。
学校では校則違反でこのヘアピンを付けることができなかったが、今日は学校ではない。
ずっと家に引きこもっていた真夜にとって、こうして行き先が決まっていてその準備をするというのは久しぶりの感覚だ。
しかもこれから学校へ行くというまるで地獄へ落とされるような絶望感の外出ではなく、希望を胸に抱くワクワク感。
今からまた誠也に会いに行けるというのが楽しみだった。
真夜は自転車で保羽川へ向かった。
二日前には暗い気持ちで自転車で駆け抜けた道も、今は楽しい場所へ行く気分だ。あの日は死にたいと思ってその場所へ行こうとしたのに、今はまるで逆だ。
早くあの場所に行きたい、とワクワク感が止まらなかった。
河原に自転車をとめて、真夜はあの浅瀬へと歩いた。
二日前に誠也と出会った場所で腰を下ろす。
「まだかな。まだかな」
スマホも本も何も持っていなかったが、真夜にとってはただ待つ時間だけでも楽しかった。
川を眺めると水面に夏の太陽が反射してキラキラと輝いてる。
あの日は死にたいと思って足を突っ込んだ川が今はとてつもなく美しく見える。
青い水は澄んでいて、それがまた綺麗だ。
同じ場所、同じ風景だというのに、気持ちはあの時とは全く違う。
まだかまだかと待っていると、後ろから声がした。
「やあ、本当に来たんだね」
待ちに待っていた声の主だ。
「誠也! 待ってた」
「お待ちどうさま」
今日の誠也は制服ではなく私服だった。
半袖の水色パーカーにジーパン、すらっとした手足に立派なスニーカー。
暑さ予防の為か頭にはキャップをかぶっている。いかにも男子高校生らしいそのファッションが似合っている。
制服姿もよく似合っていたが、それとも違う衣装に、雰囲気が違う気がした。
真夜は自分も帽子をかぶってくればよかったと思った。
「しかしここは暑いよな。午前中だっていうのにちっとも涼しくない」
誠也はそう言うと、真夜の隣に座った。
「昔は夏休みの宿題は涼しいうちにしろって言われてたけど、今は朝だってちっとも涼しくないな。朝からクーラーをつけなきゃいけないんだったら昼に宿題やっても同じだろ」
その例えに真夜はくすっと笑った。
「今の夏ってものすごく暑いよね。昔はもっと涼しかったらしいけど」
「これが地球温暖化ってやつか。そりゃ北極の氷も溶けるわけだ」
近年の暑さは異常だ。気温は三十五度を超える日もよくあり、毎日のようにニュースでは熱中症注意報を出している。こまめな水分補給を、などと聞き飽きたほどに聞くのだ。
ここは河原なので、水が近い分少しだけ涼しい。風の通りもいい方だろう。
しかし、それでも直射日光はどうしても暑いのだ。
「こんな暑い場所にいるってのもあれだな。今日は別の場所にでも行くか」
「別の場所って?」
「公園にでも行かないか、日陰のある場所じゃないと辛い」
河原には屋根のあるものがないのだから暑い。それならばまだ日陰のある屋根の下などで過ごす方がいいだろう。
「なんならそこで飯でも食わないか」
「公園でご飯? でも、お弁当なんて持ってないよ」
「コンビニに行けばいいだろ。そこで昼飯になるものを買おう」
基本的に外食をしない真夜にとっての昼食とは家で食べるか、給食か、遠足の時の弁当のイメージだ。
日中に母が何か買いなさいとお金を置いていくこともあるが、外に出るのもおっくうで真夜は基本的に冷蔵庫のおかずや冷凍食品に買い置きのパンやインスタント食品などを食べていた。
なので昼飯を外で買って食べるということをしないのだ。
外で誰かとお昼を食べる、それは漫画などでよく見たシチュエーションだ。
しかもそれが男の子という点はまるで少女漫画のワンシーンみたいでときめく。
「うん。行こう!」
二人は河原に止めていた自転車に乗ってコンビニに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます