呪い愛

@sadaaki

第1話 穏やかな日常

結月裕太郎は、日が沈みかけた商店街を歩きながら、バイト先である小さなスーパー「マルヤ」に向かっていた。マルヤは商店街の外れに位置しており、外見上何の変哲もない店だ。しかし裕太郎にとっては、この場所はバイト先以上の意味があった。


そう、藤崎茜の存在である。


茜は、裕太郎の大学の同級生でありながら、いつも大人びた様子で何事もそつなくこなす。周りに気配りができる優しい人だ。おまけに顔もかわいい。


裕太郎はそんな彼女と同じ店でバイトできることが、ささやかな楽しみのひとつだった。今日も彼女とシフトが重なっているため会うことができる。


「結月くん、お疲れ!」


裕太郎が店内に入ると、一足先にレジに入っていた茜が一番に声をかけてくれた。


「藤崎さんお疲れ、今日もよろしく」


裕太郎もきちんと挨拶を返す。そして更衣室へと向かうのだった。


さっと制服に着替えてタイムカードを切ってきた裕太郎は、いつも通り作業を開始した。いつも最初にしている仕事は、割引き商品の品出しである。セール品は人気が高く、すぐに棚から消えていくため、定期的に補充しなければならない。


裕太郎はバックヤードから商品の入った段ボールを運んで、棚に補充をした。単純な作業だが、意外と疲れる。


裕太郎はバイト時間中、淡々と作業を続けていった。そしてスーパーの閉店時間になった。そこまで遅い時間ではないのでちょうどいい塩梅だ。


きっちりと閉店作業を終えて、休憩室に行くと、茜がスマホをいじりながら待機していた。


「ふ、藤崎さんお疲れ!」


緊張しながら声をかける裕太郎。いつも自然に振る舞いたいと考えるが、いざ本人を目の前にすると上手く話せない。


「結月くんお疲れ!今日も大変だったね〜」


彼女は笑顔で返してくれた。これこそが疲れた身体への何よりの癒しだった。それから歩いて当たり障りのない話をしながら、二人は店の外へと向かった。


裕太郎は心に決めていたことがある。そう、彼女の連絡先を聞くことだ。奥手な彼は、出会ってそこそこ付き合いがあるのにもかかわらず茜と連絡先を交換できていなかったのだ。今日こそは連絡先を交換しよう!と思っていたのだ。


「あ、あの藤崎さん。帰る前にちょっとだけお話いいかな?」


「どうしたの?急に改まって。」


この時の裕太郎は全身から汗が噴き出していた。好きな人から連絡先をもらうこと、それは彼にとって一大イベントだった。しかし…


「あっ…えっと…やっぱりなんでもないや。ごめん。」


弱気になってしまった。茜はあれぇー、と笑う。また上手くいかなかった裕太郎は脳内反省会を繰り広げながら帰路につくのだった。


そんな後ろ姿を見送った茜は「しょうがないなあ。」と呟きながら、なお穏やかな表情でその場を去った。

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