マリー、アントを永遠《とわ》に網《ねっと》で!〜逃げられるのなら捕らえておけばいいじゃない〜

浦がるむ

第1話


 平日の朝は好きだ。

 だってあの人に会えるのだから。


 城門の手前に立って私は一人想う。


 静寂に包まれた朝に2頭の馬の鳴き声が鳴り響く。ひひーん、と鳴く馬を交互に撫でながら綺麗に髭を整えた家臣が私を呼ぶ。


 「姫様、時間になりますぞ」


 幾度の死線をくぐり抜けてきた代償なのだろう、顔に複数傷がある初老の家臣はニッコリと笑いかける。


 私はこくりと頷き、馬に繋がれている荷台に登る。ぐっと視界が広がり、遠くを見渡せるようになる。


 城の上から見る景色も素晴らしいですが、ここから見るのもいいものですわ。


 澄んだ景色に心を奪われていると定刻になったのだろう。機械式の門が左右にゆっくりと開いていく。それが7時になった合図だ。


 門が完全に開いたのを確認して、白髪交じりの家臣が馬の手綱を掴んで荷台に座って振り返る。


「それでは姫様、参りますか」

「ええ。今日も宜しく頼みますわ」


 動き出し、振動が立っている私に伝わる。

 この振動が私の気持ちを高揚させる。


 今日こそは。


 気合を入れて、元々積んであったを右手で拾いあげる。


 私──マリーはこれから愛する男に会いに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る