第23話 めいちゃんを救うために
女──ティナは、かんなの回復で意識を取り戻した。
ティナは、かんなに何も隠すつもりはないらしく、彼女の過去と現在の所属を明らかにした。
彼女は、アルファレド神聖王国の王直轄の影であり、王命でめいのそば近くにメイドとして仕えていたこと。そして、十六年前、アルファレド神聖王国に現れた、先々代の聖女「まいか」にも、当時メイドとして仕えていたこと。
まいかは、めいの母だ。
前々回の聖女戦争において、聖魔法「聖なる光」を用いて生き残った、勝者にして、帰還者だ。たったの一年で聖女戦争を終わらせて、多くの聖女を失墜させ、アルファレド神聖王国に勝利をもたらした。
けれどめいの母は、帰還後、精神に不調をきたし、ずっと入院生活を送っていた。そして、そこでめいを産んだ。
めいの父親の話は聞いたことがない。めいは、まいかがこの世界で乱暴されてできた子供なのだろう。まいかの精神の不調はそのせいなのだろうと、かんなは思っている。
まいかの精神の不調はずっと続き、幼いめいを育てることはできず、めいは親戚や施設を転々としたという。ずっと寂しい思いをしていたはずだ。
最近になってまいかの調子がよくなり、やっと親子で暮らせるようになったのだ。
ティナを地下からだすわけには行かないが、少しましな部屋にうつし、話を聞く。グレアムは、何も言わず、ただ、かんなの背後に控えていた。
「めい様は、まいか様のお子様、だったのですね」
ティナは、かんなの手の中の鎖が切れてしまったブルーグリーンの指輪にそっと目をやった。
「ええ。この指輪は、召喚される前、めいちゃんのお母さんにもらったんです。魔力供給の石だと。魔力供給するなら、これを通して行うようにと言われました」
「その石は、アルファレドの王族だけが持つ精神感応の魔法を、陛下が宝玉に閉じ込めたものですから。当時、まいか様に陛下がお贈りになりました。それを使っていたため、かんな様は正気を保っていられるのでしょう」
「だから、りこは」
かんなは、りこの魔力供給への依存症のような症状を思い出す。
「めいちゃんは、めいちゃんは大丈夫なんですか⁉」
宝玉に守られていたかんなはともかく、めいはこんなものは持っていなかった。
「めい様は非常に魔力が多く、こちらに召喚されてから、ほとんど魔力供給を受けていらっしゃいません。それに、陛下がめい様にも勲章として同じ効果のある宝玉を贈られております」
かんなはほっと息をついた。
でも、ならば、なおさら、先日の戦いで魔力供給によって倒れためいが気になる。
「じゃあ、めいちゃんがこの間魔力供給で倒れたのは、やっぱり、あの神官が何かしたんですねっ」
「はい、私も実は、神官ソーマによってめい様の側から遠ざけられました。おそらく、召喚者である神官ソーマは、めい様を支配下に置こうとしているのです」
「何の目的で……」
「陛下を倒し、アルファレド神聖王国を我が物にしようとしているのでしょう。めい様の力を手に入れれば、貴族と民の支持を得やすくなります。王権に一歩近づくことになりますから」
「戦わせるだけじゃなくて、そんなことのために、まためいちゃんを利用するなんてっ」
「かんな様。こんなことを申し上げるのはおこがましいのですが、今回、陛下は聖女召喚を行わない予定でした。クリステラ王国と泥濘の聖女の侵攻に我が国の軍だけで立ち向かおうとしていたのです。しかし、神殿が聖女召喚を強行しました。今思うと、全てがソーマの企みであったかもしれません──陛下は、殺し合わせるのではなく、お二人をお助けしたいのです。めい様のためにもお力をお貸しください」
「どうして、聖女にそこまでしてくれるんですか? あなたの国に何も得なんてないでしょう」
「私と陛下は、まいか様に多くのものを頂いたからです。そして、この聖女召喚の在り方を憂いているからです」
遠くを見るような、愛しいものを思い浮かべるような、そんな表情だった。
(もしかして……。でも、まだ、これは言えない)
「それに、めい様がまいか様の娘だとお知りになれば、陛下は、今まで以上にめい様にお力添えしてくださいます。これだけは断言することができます」
ティナは、かんなにそう強く言い切った。
(めいちゃんのお母さん、めいちゃんのお母さんががんばったから、めいちゃんのことをこんなに大事にしてくれる人がいるんです)
彼女がめいのために動いていることだけには確信が持てた。ティナは、敵陣へ命をかけて侵入してきたのだ。かんなはティナの話に乗ることに決めた。
でも、一つだけ違う。
「ティナ。私は、あなたに力を貸せないです」
驚くティナに、かんなはほほ笑んだ。
「逆です。あなたが私に力を貸すんです。めいちゃんを救うために」
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