第7話 謹慎

 王に静養という名の謹慎を命じられてしまってからは、めいにできることは、座学しかなかった。

 ソーマはあの後数日で回復し、何でもなかったようにめいの所へ顔を出した。

 過去の聖女の歴史を、ティナやソーマと一緒にひも解く。

 基本はソーマに教わるが、ソーマも王宮に来てからは、めいといつも一緒にいられるわけではない。

 そんな時は、めいはティナを連れて図書館に出向き、過去の文献を読みふけっていた。

 と言っても、残念ながらめいにはこの国の文字は読めないので、ティナに読み聞かせをしてもらうしかないのだ。

(話はできるのに、何で読めないんだ)

 不自由なシステムに、文句を言っても仕方ない。

 めいは、今日もティナの読み聞かせを頬杖をつきながら聞いている。

 話を聞きながらふと気になり、めいはティナの目をじっと見つめた。

「どうかしましたか、めい様」

「なあ、ティナの目は灰色だろ? あと、ソーマは青。この国の人達ってどんな目の色が多いの?」

 首をかしげるティナにめいは問いかける。

「そうですね。一番多いのが、灰褐色、褐色、青と金も多いです」

「じゃあ、陛下みたいなブルーグリーンって、あんまりいないの?」

「ああ、めい様はご存じないんですね。ブルーグリーンの色は王族の色なんです。今、この国では、陛下しかいらっしゃいません」

「え……、あ、そう、なんだ……あー、珍しい色なんだな。あれ、でも、普通王様には王妃様とか王子様とかいるもんじゃないの? ほら、あたしぐらいのさ」

「実は、陛下はご結婚してらっしゃらないのです」

「え。何で? 陛下いい年だろ」

「それが、陛下はお子様がおできにならないお身体だそうです。そのような状況で王妃様を娶るのは王妃となられる方にも不誠実だとおっしゃって。まだ正式に王太子に任命はされておりませんが、王位は傍系王族の方が継がれることに決まっています。地方領主の方なので、めい様はお会いしたことがありませんでしたね」

「そっか……、いないのか、王子様」

「まあ、めい様は王子様とのロマンスをお望みでしたか?」

「ばっ。そんなんじゃねえっ」

 ティナは、くすくすと笑いながらめいをからかう。めいはむっとして頬を膨らませる。もちろん本気で怒ってるわけではないけれど。

 そんなめいを、ティナは何とも言えない目つきでじっと見つめていた。

「めい様は、先々代の聖女様に似ていますね」

「先々代?」

「ええ。聖女戦争は終結後、五年間のインターバルがあるのは、先日学んだ通りです」

「聖痕が力を取り戻すまでに時間がかかるってやつだろ。昔は、周期が何十年も空いていたけど徐々に短くなってきたって話」

「ええ。前々回の聖女戦争は十六年前に始まり、十五年前に集結しました。一年と言うのは、聖女戦争では異例の早さだったのです。十五年前に召喚された聖女様は……」

 その時、周囲が急に騒がしくなり、めいとティナは顔を見合わせた。

 図書館の扉が、バタン、と開け放たれる。

「め、めい様」

「ソーマ? 何があった?」

「しゅ、襲撃です。もうこの王都まで、聖女が」

「りこが? あいつがここまで来たのか⁉」

 めいは、立ち上がる。

「行くぞ。ソーマ。謹慎はとけたよな」

「はい。参りましょう、めい様」


 アルファレド神聖王国の王都サルタは、城壁に囲まれた街だ。

 聖女の襲撃を受けたのは、城壁の外からだった。

 理由は簡単で、蘇生に利用される遺体が埋葬されている共同墓地は、衛生上の観点から城壁外にあったからに他ならない。

 めいは、ソーマと共に馬車で城壁へと向かいながら、両手を握り締めた。

 今回の襲撃はめいにとってチャンスだった。

 めいは、先だっての謁見で王に国外への侵攻を禁じられた。他国へ聖女を倒しに行くことが、公には認められない立場になってしまったのだ。

(向こうから来てくれたんなら、倒すチャンスだ)

「めい様。このチャンスに、泥濘の聖女の聖痕を手に入れましょう。聖なる光は、聖女の持つ魔法の中でも、最強といってもよい魔法なのです。めい様の方が力は圧倒的に上なのです。聖女を見つけたら、先手必勝で倒しましょう。生ける屍のうち漏らしなども気にする必要はありません。王都には味方の兵もたくさんいますので、大丈夫です」

 ソーマの言葉は心強い。

「魔力供給も行いますので、心配せず全力で行ってください」

「……この前、倒れただろ」

 先日の魔力供給の中で起きた甘美なまでの感覚が思い出されて、めいは思わず口ごもった。

「先日は、魔力供給が初めてだったために、うまく調整できなかっただけです。今度は大丈夫ですよ」

 ならば、先日のあの感覚は、調整がうまくいかなかっただけかもしれない。

「ああ、なら頼む」

 めいは、前方にせまる城壁を馬車の窓から見上げた。

 

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