超心理学部の日常
亜未田久志
第1話 モラトリアムの終わり
オカルト研究部と科学部が廃部の危機に立たされて「お前ら合併しろ」と命じられて出来たとされるのがこの「超心理学部」である。
現在、部員二名。
絶賛廃部の危機である。
そもそも以前までいた残りの部員が何の対策もせずに卒業したのがいけない。今年二年生になった我々残りの部員も新入部員獲得に見事失敗。春を過ぎて夏季休暇を目前にした今に至る。
「
そう僕に声を掛けてくるのは幼馴染の
「うーん? 今、いいところなんだが……」
「漫画読んでるだけじゃん」
「だからその漫画がいいところで……終わった」
今週号のジャンプを読み終えると鞄にしまう。
「ねぇ〜新入部員が来るか、成果を挙げなきゃ廃部なんだよ?! 分かってるの?」
「うーん……確かに部費は生命線ではあるが……その分、バイトすればいいんじゃないか?」
「むう……
ここで一つ「超心理学」というものがなんなのか説明したい。まあ端的に言えば「超能力を扱う学問」なんだそうな。サイコキネシス辺りが有名か。そういうESPを取り扱い科学的に説明する……「絶滅危惧種の学問」ようするに令和じゃやってる人もいないってことだ。それでまあ、ここからが本題なのだが、その「絶滅危惧種の学問」で「超能力を扱う学問」な超心理学で成果を挙げる……というのはとてもじゃないが現実的じゃない。日和曰く現実主義者な僕からすればナンセンスと言える。かといって、だ。今から新入部員を集めようにも信用も人望もない。というかほとんどの新入生が部活を決めてしまっている。さらに言えば本校は部活に強制参加が校則として定められており、帰宅部は基本的にいない。それこそ幽霊部員とかな。ちなみに幽体離脱とかも超心理学の研究対象らしい。閑話休題。
「ま、なんとかなるだろ」
「またそれだぁ……いいよ、私に案があります」
「うん?」
あの能天気を絵に描いたような人物であるところの七種日和に案がある? 少し耳を傾ける気になった。椅子にもたれ掛かっていた姿勢を正す。
「お? 聞く気になったね? いい事です……では」
椅子から立ち上がったと思えば超心理学部の狭い部室の隅からガラガラガラとホワイトボードを僕の前まで持ってくる。
キュキュキューッとマジックペンの不快な音を走らせ書いた文字は、
『
だった。
「器用にルビまで振ってくれちゃって」
「すごいでしょー」
(別にすごかないが)
とは言わないでおく、この幼馴染の機嫌を損なうと痛い目を見るのは漏れなく僕なのだ。歴年の経験が物語る。
「で? その発火能力がどうした」
「うん、私なったみたいなの
「へぇ」
いまいち面白くないギャグだが笑った方がいいのかと思案していると僕の鞄からジャンプを取り出す日和。
「ほら」
燃え上がるジャンプ。
泣く僕。
「何しやがるテメェ!!!!」
「い、いや流石に教科書はマズイかなって」
「ジャンプならいいと思ったのか!? ふざけるなよ!!」
「ご、ごめんなさい!! 新しいの買うから許してください!!」
む、弁償する気はあるのか。
なら許し……ん?
「日和」
「ひゃ、ひゃい!」
「ライターはどこだ」
「ライター?」
「今使ったんだろ?」
「使ってないよ」
「じゃあマッチか?」
「持ってないよ」
……
……
…………は?
「つつつつまりなにか? ひひひ日和は本当に発火能力者になったと?」
「だからそう言ってるじゃん」
これは。
マズイのではないか。
なにがというか。
こう全体的に。
現実主義者としての僕の心が必死に警鐘を鳴らしている。放置するな。禍根を残すぞと脅してくる。
これは短いながらの僕の人生の経験則なのだが人間社会というのはどうしても「普通」という共通の幻覚を見ていないと落ち着かず、それを害そうとする者を排除する傾向にある。
令和の現代社会がなにをどこまで受け入れてくれるのか、僕はまだ知らない。
知らないからこそ危ういと思った。
発火能力という危険因子を放置してくれるほど人間社会は優しくはない。それが社会の縮図たる学校なら尚の事。
僕は日和の手を取ると部室を出た。
「ど、どうしたの!?」
「火災報知器に引っかかるかもしれない。場所を変えよう」
「わ、わかった」
僕こと
僕たちは校舎裏の使われなくなった焼却炉の近くまで来る。
「ここなら大丈夫だ。もともと物を燃やしてた場所だし」
「ありがとう……でも本当にどうしたの?」
「……いや、本当に火災報知器が気になっただけだよ。それよりその発火能力について詳しく話してくれ」
「う、うん。あのね、『燃やせるもの』を持った状態じゃないと使えないの。さっきみたいに」
発動するのに条件がいるらしい。だからといって安心とはならない。この世に燃やせるものを持つ機会などごまんとある。暴発の危険性は拭えない。僕は思案する。無い頭を振り絞って考えた。
「防火手袋ってあったよな」
「え? ああ、うん。あるね」
「日和、これから緊急時以外はそれ付けてろ、ていうかこれから買いに行くぞ防火手袋」
「え? え? ジャンプは?」
「そんなもん今度でいいから!」
僕はしっかりと日和の手を握ると祈るように歩を進めるのだった。
どうか神様、この現実主義者から彼女を奪わないでくださいと祈りながら。
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