流れ星の願い

春風

第1話

 月のない夜だった。冷たい風がヒョウヒョウと音を立てている。ゴロゴロと転がる大小の岩。その陰に身を潜めるように草木が生えていた。

 最果て荒野。それがこの土地の名前だった。ここは、何日進んでもずっと同じ景色で、荒野の終わりを知る者はいなかった。世界の端っこ。そういう意味で、「最果て荒野」と呼ばれていた。

 その荒野を、一人の少年が歩いていた。少年の名をテオといった。頼りとなる明かりはカンテラひとつ。それでもテオの足が迷う様子はなく、慣れた足取りで進んで行く。

 テオの家はこの荒野の中にあった。星や自然を研究していたテオの父さんが建てた家だ。今、テオはそこに一人で住んでいる。

 テオは空を見上げた。今夜は普段見えない星までもが、張り切って輝いている。朔の夜は、星たちが主役だった。星たちが空いっぱいに瞬く夜、テオの父さんは決まってテオをベランダに誘った。

――テオ、今日は流れ星のお話をしてあげよう。

 ふと父さんの声が思い浮かび、テオははっとした。すっかり忘れていた記憶。ずっと昔、テオが小さかった頃の記憶だ。あの日父さんが話してくれた流れ星の話は、どんな話だっただろう。テオは足を止めて、記憶の糸を手繰り寄せる。

 その時だった。

 夜のとばりを斜めに切るように、一筋の光がサッと走った。

「流れ星だ!」

 テオがそう思う間に、光は荒野の中に飛び込んで、まばゆい光を放った。まるで突然、太陽が目の前に出てきたかのような眩しさだった。テオは思わず手で目を庇う。眩しい光は一瞬で、辺りはすぐに暗闇に包まれた。それでもしばらくの間、強い光が目に焼き付いて離れず、テオは目をしばたかせた。

 やっとテオの目が落ち着いて、テオが荒野を見回すと、光が落ちた辺りがやわらかく輝いていた。ここから走って行けば、すぐ辿り着けそうだ。

「近いぞ、隕石が見られるかもしれない」

 テオは光に向かって走り出す。光は段々と小さくなっていくようだった。見失ったら最後、隕石と荒野の石の違いを見定められるかどうか、テオには自信がなかった。

 幸いにも、テオは輝きが残っているうちに、光の元へ辿り着いた。隕石が落ちた周辺は、抉れたように窪んでいた。これなら焦る心配なかったな、とテオは光へ歩みを進めて、息を呑んだ。

 輝きの中に少女が座り込んでいた。彼女の金の双眸がテオを捉えた。

「あら、おめでとう。第一発見者さん」

彼女は立ち上がり、スカートの裾を持ち上げて微笑した。

「私は流れ星。あなたの願い事を、ひとつだけ叶えてあげるわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る