ねじをとめるだけのバイト【検索】

ねじを留めるだけのバイトというものを

知っているか?そんなものはあるのだろうか、私はそんなものを見つけてしまった。

日払いのバイト、高収入である。

日給10万だという。

そんなことがあり得るのか、

私はしばらく考えたのち、

そのアルバイトに応募したのだ。

月に4日ほどで40万、

なんて待遇のいいバイトなんだ。

私は高揚しながら歩いて場所まで向かう。

しばらく待ち合わせ場所の渋谷駅、

マークシティのエスカレーター前で

待っていた。若者が声を掛けてきた。

車に乗るようにと指示されたのだ。

すぐ近くに停まる白いセダンに乗り込んだ。

怪しいとは思っていたが、こんな高収入。

数十分走ったのち、

車が目的地に着いたようだ。

セダンのドアが開けられて、

私は車から降りる。

廃工場のようだ。

後ろめたさを感じ、

やっぱり辞めますというと、

助手席に乗っていた先ほどの若者が、

「ほんとですよ、

ねじを四つ締めるだけでいいんです」

と笑みを浮かべながらいった。

中に入る。薄暗い廃墟のような場所だった。

錆びかけた物が目を覆う。

そこに目立つように置かれているのは

棺桶のようなもの。

ばたばたと中で暴れる音がする。

そのうちの一人に電動ドライバーを渡される。

これでねじを留めろという。

近づくたびに声が聞こえる。

あけろ、だせ!、助けてくれ。

次第に声がおさまっていく。

私はねじを位置に持っていき、

ドライバーの引き金を引く。

打撃するようなその音で再び慌て始める。

やめろ、やめろ、やめろ、

そうして私は一つの角を閉じた。

再びねじを閉める。その声を遮断するように。

これだけで10万だ。

再び引き金を引く。

慌てふためく中にいる

彼から鳴き声が聞こえる。

締め終わり、もう1箇所、

締めて、最後の箇所。

彼は完全に封印される。

引き金を引いた。

いつの間にか彼の声は聞こえなくなった。

とどめを刺すようにもう一本のねじを留めた。

震えるドライバーをおろし、

意気消沈していると、

数人の男がその棺桶を持ち上げた。

私はやっとその声を出せたのだ。

「あの人、どうなるんですか」

彼は意気揚々とこういった。

「スクラップだよ」

私の見えない場所から、

物が潰される音がし、

叫び声が空へ消えた。

私は封筒を渡され、その足で自宅へ帰った。

思えば他にも棺桶があったような気がする。

帰り道で考えながら、

私は人殺しの手伝いをしてしまったのかと、

手が震える。

しかしながらこんなお金を手に入れたのだ。

そうやって納得して、封筒を握りしめた。


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