干される【検索】

階段を上がり、普段通りこの廊下を通る。

向こう側の階段から

人の気配がしてそれを見る。

大きい黒いビニール袋を引っ張る二人組の男。

何か嫌な予感がして足早に部屋に入る。

持っているというか

引きずっているような様子だった。

荷物というものではなかった。

何か、見てはいけないようなものを

見てしまった時の感覚だ。


私は夕方のニュースを見ていた。

その中のある特集を受け流すように見ていた。

やかんをに水を入れ沸騰させる。

何事もなく青い炎を見ていた。

もうまもなく19時になるところで再び、

ニュースが流れ始めた。


『人気俳優 Jが失踪、

過去の女性スキャンダルが発覚後すぐに』

物騒な事件だな、と思いながら夕飯を悩む。

俳優は大変だな、過去を掘り返されるのか、

とテレビを眺めながら思う。

すると隣の部屋から物音が聞こえた。

正確にいうと隣の部屋のベランダから。

洗濯でも干していたのかと私は思った。

そういえば、先ほどの黒いビニールは何だったんだろう。そんな疑問を横目に普段通り

台所で夕飯を作る。


それもそのはず、味の濃い料理を

作りそれを平らげた。

その夜はネットフリックスで

溜まったドラマを観ていた。

すると幾時間かおきに、

どご、という物音が聞こえてくる。

おそらく隣の部屋だ。

時刻はいつの間にか23時を過ぎていて、

そろそろ寝ようかと寝支度を揃える。

そこで再びどご、という音が聞こえてきた。

重たいその音はとても気味が悪かった。

やはりベランダが怪しかった。

確認しようにもパーテーションがあるため、

ベランダからは見えない。

その直後またも嫌なニュースが

飛び込んできた。


『人気アイドル、失踪。

犯罪事項に手を染めていたか』

それに対してコメンテーターが言及していた。

夕方に見た人気俳優と結び付けがあると。


私は勘がいい方だと言われる。

もし仮に、夕方見た

あの黒いビニール袋の中身が人間だったなら。

そうだとしても何故このマンションに?

そんなことを考えながら私は

目をゆっくり閉じた。


翌朝、いつもより早く目覚めると、

人の声が外から多く聞こえてきた。

何事か?と思い玄関を開けると、

たくさんの警察官がいた。

近くにいた警察官に声をかける。

どうかしたんですか?と。

「失踪した有名人がベランダで

磔にされていた、どちらも亡くなった状態で」

私の推測は少しばかり的確だった。

何故、この一室で?と問いかけると、

以前からこの場所に行方不明の有名人が運ばれてきていたのだという。その詳細は不明。

警察官との会話を切り上げ、

そんな物騒なことが隣の部屋で起きている現実と対峙し、私はベランダのドアを開いた。

微量の死の匂いが漂って

青色の空と混ざり合っていた。

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