空の住人と遊園地

 君たちにとっての僕が空なら、僕にとっての空は君たちと君たちの世界だ。

君たちが僕を見上げるのなら、僕は君たちと君たちの世界を見上げるように眺めているよ。


 最初はもっと、君たちの近くにいたんだ。

今ほど高くはなかった。


 回る乗り物とか、物凄いスピードで動く乗り物とか。

反対に、物凄くゆっくり動く乗り物とか。


 他にする事もないから、飽きずに眺め続けていた。

それが僕にとって、唯一の気晴らしだったから。


 でも、少しずつ距離ができてしまった。

引き離されていったんだ。


 遠くなってしまっても、変わらずにする事はなくて、眺め続けていた。

そこには、僕には決して触れる事のできない輝きが存在するから。


 ここは広くて自由に見えて、羨ましいかい?

そっちには沢山の色や光があって、程よく広くて、僕には羨ましいよ。


 ここはあまりにも広すぎる。

迷子になったら元の場所に戻れない。


 ここには僕しか住人がいないんだ。

いつも一人で語ってばかりで、自分の声にも飽きてしまう。


 笑い声って、どんな声だった?

泣き声って、どんな声だった?


 僕は叫ばないんだ。

どうせ誰にも届かないから。


 そっちで誰かが風船を手放しても、僕を目掛けて飛んでくるわけじゃない。

その色を手にしてみたいけど、掴めない。


 風船が見えるのかって?

小さい点だけど、見えるんだ。


 私たちのことも見えるのかって?

それも、小さい点だけど見えるんだ。


 小さい点だからこそ、もっと近くで見てみたいんだ。

どんな姿だろう?


 楽しそうに笑っているのかな?

駄々をこねたりもするのかな?


 いいな、羨ましい。

僕も色んな感情になってみたい。


 動き回って、はしゃいでみたい。

誰かと一緒に走ってみたい。


 地上に足をつけてみたい。

大地を踏み締めてみたい。


 せめて声が届く距離。

贅沢は言わないからその距離まで近づけたら。


 君たちの色んな声を聞いて過ごしたい。

寂しさを紛らわす音が欲しい。


 そんな距離なら、僕も大きな声で君たちを呼んでみるよ。

頑張ったら会話できるかもしれない。


 喉が枯れて疲れちゃうかも。

それでも、挨拶だけでいいから交わしてくれる?


 交わせるうちに思う存分。

届かなくなるその日まで精一杯。


 僕は一体、どのくらいの高さまで上ってしまうのだろう。

どこに辿り着いてしまうのだろう。


 いつか、君たちの点さえも見えなくなってしまうのだろうか。

そうなったら、とても寂しいよ。


 君たちの世界を想像するしかなくなるんだ。

想像できるだけマシだと思う?


 でもいつか、想像する素材さえも失われるかもしれないんだよ?

記憶が薄れていくかもしれないんだよ?


 怖いんだ。

だから、今しっかりと、君たちと君たちの世界を眺めるんだ。


 君たちも少しだけ、僕に近づいてくれたらいいのに。

高い乗り物に乗る時だけ、ほんの少し近づくけどね。


 もっと高い乗り物を作ってよ。

僕らがいつか握手できるくらいの、高い乗り物。


 そういう希望を抱いていてもいいかな?

それくらいの想像、許してくれるかな?


 今のうち、想像力を鍛えるから。

もしも希望が叶わなくても、あまり寂しくなりすぎないように。


 でも、希望は捨てずに僕はここにいるんだ。

君たちが僕を見上げるのなら、僕は君たちと君たちの世界を見上げるように眺めているよ。

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