信号待ちのミケランジェロ
バイパスとバス通りが交わり、そしてアーケード街に面する交通のハブ交差点ではいつも信号に待たされる。
「いっつも待ち時間長いよね」
少し息を溜めて
この信号機はバイパス車道が優先されて、歩行者は長時間赤信号待機を強いられることで有名だ。遠回りになるが、地下街を迂回した方が早い。
「今日は特別に長いはずだよ」
今日の信号はことさら待たされるだろう。巨大生物運搬車輌が特別運行される予定日だ。最大時速毎時12キロメートルでしか走行できない超重量級の特殊車輌が通過する。それ目的で県道バイパスの見晴らしのいいビューポイントに人が集っているくらいだ。
さりとて時間なら有り余っているし、観れるものなら巨大生物がスーパートラックに積まれて運ばれる様子も観ておきたいものだ。荷風は背伸びしてバイパス道路を見渡してみた。まだ巨大生物も運搬車輌も見えない。
「スーパーの精肉コーナーでなら見たことあるけどね」
杏子は興味なさげだ。女の子には巨大生物というロマンは理解できないだろう。荷風は隣で彼同様に背伸びする杏子の小さな表情を覗いた。
突如、日本各地に出現した巨大生物群。管理害獣として指定され、自衛隊の近代装備により月に一、二頭駆除されている。
駆除後、その後処理に困った自治体は食肉として流通させることにした。食ってみたら、案外に美味かった。
「何よ?」
「杏子さん、明日予定ある?」
荷風の突然の問いかけに杏子は小首を傾げて答えた。何をあらたまって訊くか。
「ミケランジェロって、彫刻を彫るんじゃなくて、石の中に存在する女神像を取り出すって言ったんだよ」
荷風はいつも変な切り出しで物事を表現する。杏子は困った。彼氏は何を言わんとする。
「巨大生物の肉の中にカレーが見えた」
「私の顔見ながら言うことか」
「僕が肉からカレーを取り出すから、今夜、僕の部屋に来ないか?」
巨大生物を載せた運搬車輌はまだ見えない。歩行者信号は青になった。
「急に言われても、お泊りするには準備が要るよ」
杏子が赤らめた顔をそらす。荷風は信号が再び赤になるのを待った。
……つづく
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