ユキカキング


 あいつらを見分けるのは簡単だ。雪積もる明け方に雪かきをさせれば、化けの皮が剥がれるはずだ。




 未だ夜も明け切らない薄ぼんやりした時間はいい。物音一つなく、とても寒い。

 天気予報では夜のうちに雪が降り始めるだろうと言っていた。部屋の中にいてもわかる。きんと冷えた空気が物語っている。

 明け方まで降り続いた雪はアスファルトもコンクリートも白く埋め尽くしてくれる。黒い灰色もねずみ色の灰色もみな、白い灰色の空との境目がわからないくらいに真っ白に沈む。

 日常の朝よりも早く起きて、身だしなみを整えるのもそこそこに防寒具を装備する。寒いからと言って着込み過ぎるのもよくない。動きが鈍る。勘も鈍る。薄ら寒いくらいがちょうどいい。雪かきしてる間にぽかぽかと身体があったまる。

 スノーブーツは当然の装備だ。ゴム長靴では雪の冷気は防げない。何より雪の冷たさでゴムが硬くなりよく滑る。

 暖かい防寒帽子も忘れるな。脳を冷やすのは相当まずい。頭に雪が積もり脳周辺の血管が急激に収縮したらどうなるか。考えるまでもない。

 雪かきスコップを持ったか。スコップ面は平たいアルミ製がいい。軽量で取り回しも楽だ。持ち手は木製に限る。金属製では冷たくて持っていられなくなる。

 雪かきはスポーツだ。対戦相手は大自然。雪をかくか、埋められるか。大自然との戦いを大いに楽しもうじゃないか。

 準備はいいか。いざ、玄関扉を開け放て。そこから先はすでに非日常だ。雪は容赦なく降り続け、足の踏み場もないくらいにたっぷり積もっていることだろう。存分に雪をかけ。

 非日常への扉を開け放った僕は、想像を裏切るあまりの光景に思わず呟いた。

「なんてこったい」

 雪はすでに除去されていた。

 あいつらの仕業だ。僕にはわかった。




 あいつらを見分けるのは簡単だ。雪積もる明け方に雪かきをさせれば、化けの皮が剥がれるはずだ。あいつらは雪かき星人だ。


   ……つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る