第48話 王との謁見


 俺たちは王城に入った後、玉座の間へと案内された。


 そして王相手に膝をついて頭を下げている。


「よくぞ参ったな。イリア、そしてラクシアよ。お前たちに頼みがあって呼び寄せた。隣国の王太子が不治の病を持っていてな。それを治して欲しい」


 王が直々に告げて来る。


 隣国の王太子の病を治すためにイリアさんを呼んだのか。

 確かに過剰すぎる治癒魔法を使えるのなら、不治の病すら治してしまいそうだ。


 ラクシアを呼んだ理由はよくわからないけどな。 

 

 いざという時の証拠隠滅か? もしイリアさんが治癒に失敗した場合、王太子をゾンビ化させて治りましたとでもいう的な。


「承知いたしました。必ずや治してみせましょう」


 イリアさんはあっさりと了承する。

 まあこの場で断るという選択肢は出ないか。


「うむ。其方が王太子を治した暁には、偽りの聖女などと呼ばれる汚名は必ず消えることだろう」

「偽っ……ありがとうございます」


 いま偽りに反応しかけたなイリアさん。

 

 王は次にラクシアの方へと視線を向けると。


「其方が王太子を治した暁には、死霊闇呪術師という汚名は必ず消えることだろう」


 違うんですよ王様。その娘、自分から好んで名乗ってるんですよ。


「なっ!? 汚名じゃありません!」


 すると案の定、ラクシアは否定してしまった。


 ただ気持ちは分かる。王が汚名が消えると言うのは、権力を持って消すと言っているのと同義だ。


 ラクシアからすれば消されたくない名前を消去されては困るからなあ。

 

 ただ面倒なことになるかもしれない。なにせあのクソ王子の親だしなあ。


 だが王も周囲の騎士たちも微動だにしていない。


「そうか。ならばその名が世界中に広がる……でよいのか? 本当に?」

「はい! ありがとうございます!」


 王様は困惑したように問いただすが、ラクシアはすごく嬉しそうに返事する。


 普通の人は死霊闇呪術師なんて誉め言葉に思えないから仕方ない。


 しかしあの王様、けっこう穏便なのかもしれない。ラクシアはそれなりに無礼なことをしたのにまったく怒る気配がない。


 あれが王子ならガチギレして発狂していたと思う。


「では隣国の王太子が到着次第、治癒を試みて欲しい。それまでは王城で泊まるがよい」


 そう言われて俺たちは謁見を終えて、待合室へと案内された。

 

 すごくふかふかのソファーに座りながら、俺は三人の顔を見る。


「王様、思ったより話が分かりそうな人だったな。王子と同じ感じかと思ってたのに」

「あんなのが国を統治してたらとっくの昔に崩壊してますわよ。我が国はそこまで力も強くないので、王が愚鈍なら滅亡しますわ」


 確かにその通りだ。どうやら王様はそれなりに有能らしい。


 ただ子育ての才能は残念ながら皆無だろうけどな。


「き、き、緊張しました……。ラクシアさんが陛下に反論した時は吐きそうでした……」


 そしてリーンちゃんは顔色が悪い。さっきまでの謁見で疲れ切ってしまってるようだ。


「だってあそこで反論しないと、ボクの死霊闇呪術師の英名が消されかねないもの!」


 悪名の間違いだろ。


「と、ところで隣国の王太子様はいつ来るんですか……? それまで王城に泊まらないとダメなんですよね……?」


 リーンちゃんは死にそうな顔だ。


 俺は王城に無料で泊まれるなんてラッキーと思ってるが、リーンちゃんからすればものすごくストレスらしい。


「おそらくですがあと一週間は来ないと思いますわ。数日で到着するなら先ぶれが来るので、もう陛下は把握しているでしょうし」

「そ、そうですか……」


 ああ、リーンちゃんが魂の抜けたような顔をしている。


 でも残念ながら王都の宿屋に泊まるみたいなのは許されない。


 なにせ王に招待されていながら、王城に泊まらないなど無礼に過ぎるからな。


 するとラクシアがそんなリーンの頭を撫でると。


「ボクがしばらくゾンビにしてあげようか? それなら意識がないから楽だよ」


 流石は死霊闇呪術師だ。仲間をゾンビ化するとか正気の沙汰じゃない。


 だが弱り切ったリーンちゃんは少し嬉しそうな顔をすると。


「ほ、本当ですか? お願いしても……」

「リーンちゃんストップ! それ越えたらダメなラインだから! 絶対ダメだから!?」

「そうですわ! 自分からゾンビになってはいけませんわ!」


 俺とイリアさんが必死にリーンちゃんを止めると、ラクシアは少し不満そうな顔をする。


「待って。ボクのゾンビは別に死んでるわけじゃないんだよ? 疑似的な死、ようは半催眠状態にすることもゾンビと言ってるだけで」

「ゾンビと言ってるだけでアウトなんだよ! 仲間をゾンビ化するんじゃない!」


 死霊闇呪術師を𠮟りつけた後、俺たちは泊まる部屋へと案内された。


 何と個室な上に広くて、しかも執事付きだ。最高かよ。


 そうして王城に泊まってから三日ほどが経ち、俺たちはまた待合室へと集まったのだが。


「まだ隣国王太子の先ぶれも来てないのか。いったいいつ来るんだ?」

「分かりませんわ。王族はけっこう遅れることもザラですし」

「暇だよねー」

「……」


 俺、イリアさん、ラクシアが談笑している。


 ちなみにリーンちゃんは燃え尽きて力なく椅子に座っていた。


 そろそろ先ぶれくらい来てくれないと、リーンちゃんの精神がヤバそうなので早くして頂きたいところだ。


 そんなことを考えていると騎士が部屋の中に駆け込んできた。


「た、大変です! 王子が反乱を起こしました! 皆様は避難を!」


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